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現役新聞記者が、過疎化・少子高齢化が進む日本を追う

ムラの行方 藤井 満
Vol.175/2012/8

第4回「たたらの里の暮らし考(4)」


地元の食材を使った弁当のコンテスト 地元野菜の直売コーナー

JA雲南などが主催した、地元の食材を使った弁当のコンテスト。販売単価を800円に設定して見栄えや味を競った。

JA雲南の店舗内に設けられた地元野菜の直売コーナー。


 中国山地にある雲南市周辺は、田畑が狭小で大規模な農業に向かない。大半の農家は、夫が勤めに出て妻が田畑を守っており、第2種兼業農家や自給的農家が8割超を占める。
 1990年代にはいると、女性のパート先だった縫製工場が相次いで閉鎖される。牛肉輸入自由化で和牛の飼育も激減する。野菜で農家の収入を確保しなければ、高齢化とともに耕す人がいなくなってしまうのではないか…。
 JA雲南の加工流通部門の係長だった須山一さんが「大規模農家だけでなく小さな農家を助けたい」と考えていると、松江市のサティ(イオン松江店)から、低温殺菌牛乳で有名な木次乳業を通して「アンテナショップを開かないか」と提案された。98年にサティに農産物を直売する「奥出雲コーナー」を開いた。
 JA雲南は、井上さんの組合を含めた管内(雲南市、奥出雲町、飯南町)の5グループに呼びかけて「奥出雲産直振興推進協議会」を結成する。自家用車を持たない高齢者も参加できるよう、段ボール箱に収穫した野菜を詰めて、売りたい直売所を指定しさえすれば、トラックで集荷する態勢を整えた。
 地元での直売所だけでは売れ行きが頭打ちになるため、「地産都消」を掲げ、出雲市や松江市、鳥取県米子市などで週末に出張野菜市を開いた。当初は「地元の直売所の客が奪われる」という声もあったが、出張市で「直売所マップ」を配ることで直売所の客も増えた。03年からは兵庫県内のスーパーでも月2回「産直市」(08年からは3回)を開いている。
 98年度に5カ所で6千万円だった売り上げは、08年度は14カ所で6億6千万円に達し、JAから青果市場を通して出荷する野菜の売り上げを約5千万円上回った。

   直売所は長らく女性中心だったが、最近は定年退職した男性や、農業に縁がなかった住民も参加するようになってきた。
 雲南市木次町の広沢貴美子さん(66)の近所は勤め人ばかりで、ずっと1人で畑を作ってきた。だがここ2、3年、定年退職をした近所の人が家庭菜園をはじめ、「食べきれんから、なんとかしたいね」と新たに3人が「野菜出荷組合」に入会した。「昔は私だけ寂しく耕しているような感じだった。話が合う人が増えて気やすうなって、なんだか明るくなりました」
 サラリーマン時代は地域との結びつきが希薄だった男性が、退職後に農作業や直売所への出荷を手伝うようになった。「おまえも手伝いやらされてるだか?」「オカカが(野菜を直売所に)持っていけ言うもんだけんなあ」…と、男同士の井戸端会議も増えてきたという。
 「『おなご同士、おしゃべりしてばかりで、もどりゃせん』とか文句を言ってたくせに、自分らも仲間と会ったら『元気だったかぁ!』とか言ってもどってきやせん。奥さん同士の組織が地域を変え、男性も最後には農業に帰ってきたんです。地域の中で、夫婦いっしょに歳をとって、いっしょに仕事をできるのって幸せだと思います」と井上さんは語った。

(続く)