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現役新聞記者が、過疎化・少子高齢化が進む日本を追う

ムラの行方 藤井 満
Vol.172/2012/5

第1回「たたらの里の暮らし考(1)」



山間部や離島を中心に過疎化、そして少子高齢化が進む日本。この深刻な問題を取材し、追い続ける新聞社の現役記者、藤井満氏の「ムラの行方」を連載でお届けする。
高殿と桂の巨木

高殿と桂の巨木

  「たたら製鉄」といえば、宮崎駿のアニメ「もののけ姫」を多くの人が思い出すだろう。
 山の神々が住まう「シシ神の森」に、「たたら製鉄」という最先端技術をもつ人間たちが侵入する。たたら集団を率いる女性「エボシ御前」は、恐ろしい神々を一掃することで豊かなムラを築こうと試み、神々は森を守ろうと人間に立ち向かう。結局、神々は人間に敗れ、暗く神秘的な原生林は、はげ山になってしまう――。
 人間の文明の象徴として、中世の最先端技術である「たたら製鉄」の様子を細かく描写していて興味深い作品だ。
 鉄は、縄文時代末から弥生時代にかけて、稲作とほぼ同時に大陸から伝来した。中世になると、砂鉄が豊富だった中国山地に製鉄の拠点が集中するようになった。年間製鉄量は、律令時代に114〜118トン、信長・秀吉の時代に1,000トン、明治前期には1万トンを超えたという(*斉藤昌宏「里山を考える101のヒント」)。中でも、島根県の斐伊川上流、現在の雲南市や奥出雲町などの山間地は、「たたら製鉄」が盛んな一大工業地帯だった。
 今でこそ山陰地方は全国有数の過疎地帯だが、当時は北前船が往復する日本海側は「表日本」だったのだ。
 砂鉄の採取は、砂鉄を含む岩石を切り崩して水路に流すことで比重の重い砂鉄をよりわける「鉄穴ながし」という方法が取られた。そのため川の下流に大量の土砂が流出して、斐伊川の下流は河床が上昇し、毎年のように洪水に悩まされた。そのため鉄山師と農民との間には、争いが絶えなかった。
 鉄を溶かすためには大量の木炭も必要だ。年間1万トンの鉄を精錬するには香川県の面積の8割にあたる約15万ヘクタールの薪炭林が必要とされる(*同前)。森林は、次々に伐採され、中国山地は一時は、はげ山だらけになったという。
 「もののけ姫」が「シシ神」とともに暮らす原生林は、戦後の開発が始まるずっと前に「たたら製鉄」によって滅ぼされていた。それに対する報いも、「洪水」という形で当時の人々は被っていたのである。