僕は、自分で言うのも照れるのですが、ものすごいきれい好きで通っていて、兄貴が言うには赤ん坊の頃から家にあったダスキンのブラシでところかまわず清掃して歩いていたそうです。まさか、そのきれい好きがこっちに来てから、まる2年も同じ店を清掃することになろうとは夢にも思いませんでしたが、その前に図書館の話を終わらせてから、こっちの話に入りますので、ちょっとまってて下さい。

　黒い石を敷き詰めたロビ−の床は、鏡のようにきれいでした。だから僕は、床のことを誉められるのが一番嬉しかったです。でも、はじめMAKIさんのことは嫌いでした。MAKIさんが来ると床に傷が残るからです。かかとに鉄の鋲を打った革靴を履いていたからだと思います。

　ある日、ついに、僕は我慢できなくなってMAKIさんの靴を指差しながら言いました。
　「脱いで入って下さい」。すると、MAKIさんは何を勘違いしたのか着ている服を脱いでしまいました。
　あんまり詳しいことは書けませんが、僕は誰も利用者のいない図書館のロビ−の石の上で、童貞を失いました。それからは、世の中にこんなに気持ちのいいことがあったのかと、もう、そればかりに夢中になってしまいました。MAKIさんも黒い石に写る裸がきれいだと言って、好んでロビ−の床の上を選んで服を脱ぎました。でも、そんなバカなことは長続きするわけがありません。だって、考えても見て下さい。いくら、人が来ないと言っても図書館の玄関でのことです。毎日、裸になって絡み合っていれば、やがて誰かの目に留まります。