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【パースエクスプレス・マガジン】第3回発達障害ワークショップ 「自閉症スペクトラム障害」について

3月2日(土曜日)、パースのボランティア団体 サポートネット「虹の会」主催の発達障害ワークショップの第3回目が行われた。今回は、「自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder/ASD)」について、WA Autism Association(西オーストラリア州自閉症協会)の協力により、協会から教育担当のMiranda Overさんが、当地パースの日本人コミュニティのためにワークショップを開講した。以下、虹の会協力会員の日本語医療センターのマネージャー、千綿真美さんに当ワークショップについてレポートして頂いた。

情報提供:日本語医療センター(www.nihongoiryocentre.com.au)
 

今回のワークショップの講師
Miranda Overさん
WA Autism Association(西オーストラリア州自閉症協会)にて親御さんの自閉症診断のサポートをしながら「Early Days Parent Workshop Program」をコーディネートするシニアセラピスト。

 

虹の会協力会員の日本語医療センターのマネージャー 千綿真美さんによるレポート

 

0歳から6歳くらいまでの子どもを持つ親御さんを対象に「自閉症スペクトラム障害とはどのようなものか」「早期療育について」「診断やセラピーについて」など、西オーストラリア州自閉症協会の好意にて無料で約3時間にわたり、とても和やかな雰囲気の中でワークショップは行われました。参加された方々は、すでに自閉症スペクトラム障害を診断された子どもを持つお母さん、まだ診断はついていないが心配でどうしたらいいのか悩んでいるお母さん、他には自閉症スペクトラム障害について学びたいという教育関係や医療関係の方々でした。
 
以下は、ワークショップでお話頂いたMiranda Overさんの講義の内容をまとめたものです。
 

その1
日本人コミュニティの皆さんにも知ってほしい『自閉症スペクトラム障害』とは
 
自閉症スペクトラム障害とは、他人とのコミュニケーションや対人関係に影響する生涯にわたる発達障害である、と言われています。具体的な原因は解明されていません。大切なことは、決して親に原因のあるものではないということ、早期の療育でサポートしていくことです。自閉症スペクトラム障害の子どもたちは一人一人違い、独自の個性がありますが、次のような共通した特徴がみられます。
 
◆言葉を文字通りに捉える傾向があるため、例え話、ユーモア、皮肉が理解できません。他人を傷つける表現を使ってしまいます。嘘をつくのが難しいです。

◆人の身振りや声のトーン、顔の表情などを理解したり、自分で使い分けたりすることが難しいです。

◆人がみな違うことを考えたり感じたりしているということが理解できず、他人と分け合うことや順番を交代したりすることが苦手です。どうやって接すればいいかわからないため、物を取り上げたり、人を押したりというような行動に出てしまうことがあります。

◆常に同じ環境と習慣を好み、変化があると不安になりやすく、行動をコントロールすることが難しいです。融通がきかない考え方をする傾向があります。

◆視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、前庭感覚、固有感覚などの感覚システムが不安定で、過剰だったり鈍麻だったりします。特定の動きを繰り返す、何かを噛んだり舐めたりする、特定の手触りや音、食感、匂いや味、温度に極端に過敏だったり、鈍麻だったりします。

◆視覚的に考える傾向があります。言葉ではなく、絵で考えます。

◆固執した考え方をする傾向があるので、学習したことをそのままで理解し、応用が難しい傾向があります。

◆特定の物事や話題(電車、恐竜、地図など)に強い関心を示す傾向があります。

◆同年齢の子に比べてトイレトレーニングや運動機能の発達などに時間がかかる傾向があります。
 
 

その2
西オーストラリア州自閉症協会について
 

西オーストラリア州では、自閉症スペクトラム障害の診断は、小児科医、言語療法士ならびに心理士のこの3人にそれぞれアセスメントをしてもらい、その総合診断結果に基づいて行われます。日本語と英語の2言語環境で育っている子どもの場合、診断が少し難しいと言われます。診断前でも診断後でも、診断をどこでどのように受けたらいいのか、どのようなサポートが受けられるのか、どのようなセラピーが受けられるのか、国からの補助(メディケア保持の永住者のみ)はどうなのか、などの相談を受けてくれるのが今回のワークショップが行われた西オーストラリア州自閉症協会の自閉症アドバイザーの方々です。以下の連絡先にて相談希望を受付けています。
 


西オーストラリア州自閉症協会
電話:08 9489 8900
Eメール:autismwa@autism.org.au


 
 

 

今回レポートして頂いた「虹の会」協力会員の日本語医療センターの千綿さんに閉義後、当ワークショップについて感想、そしてご自身の経験を活かした本誌読者へのアドバイスを紹介します。
 

横に座る通訳を介しながら講義を行なうMiranda Overさんとワークショップに参加した親御さんや教育関係、医療関係者。
 

今回のワークショップは、西オーストラリア州自閉症協会の協力を得ることができて、実に有意義なものとなりました。講師のMiranda Overさんとは仕事を通じて何度かお会いする機会があったのですが、いつもとても優しく親切な方で、協会での仕事に情熱を持って向き合ってらっしゃいます。今回も参加者の皆さんと気さくにお話され相談に乗ってもくれ、大変ありがたく思いました。参加者は日本人だけということもあり、気後れすることなく、また通訳も同席で言葉の心配もなく、より良く理解できたという感想が多く聞かれました。
 

実際、パース在住の日本人の方々で発達障害の子ども、あるいはそうかもしれない子どもについて悩んでいる方が多くいます。他の子と比べて遅れてると不安になり、でも誰にでも相談することもできず、人の目を気にして悩んでいる、という方が多くいらっしゃるのも事実です。私自身も長男の発達障害で数々のアセスメントとセラピーを経験し、悩んで泣いていた時期があり、本当にその気持ちがわかります。いつもポジティブにいることはなかなか難しいですが、悩み落ち込んだ時に以下を思い出して頂ければと思います(私もいつも自分に言い聞かせています)。
 

1.“障害”という言葉にとらわれない。
2.受けた“診断名”で考えるのではなく、それはその子の“個性”だと思うこと。
3.同じ年の他の子と比べた成長ではなく、その子のペースでの成長をみる。
4.どんな“診断名”であろうと、結局はその子のためにできることをやっていくしかない。
 

そして、このようにポジティブに考えようと頑張っている親たちの周りにいる皆さんには、何の言葉も行動も要らないので、ただ黙ってこのような子ども達を理解し、受け入れてほしいと思います。2018年の昨年から「虹の会」主催で始まった日本人のための『発達障害サポートグループ』は、共通の悩みを持つ親御さんたちが繋がり、情報交換ができる場所として徐々に広がってきています。また、発達障害を持つ子どもの親だけではなく、発達障害がどのようなものか、どのようなサポートができるのかを理解しようとしてくれる方々の参加も大歓迎です。グループについての情報提供をご希望の方は、以下までご連絡ください。
 


「虹の会」主催の
『発達障害サポートグループ』
電話:0403 530 928
Eメール:info@nijinokai.com.au


 


 
パースのボランティア団体・サポートネット「虹の会」
パースとその周辺に住む日本人とその家族をサポートし、お互いに助け合いながら心豊かに暮せる社会作りを目指し活動を行っている豪州政府認定団体。
ウェブサイト:nijinokai.com.au







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