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“新しい”環境でサッカー。キャリアの第二章はパースから(後編)

サッカーを取り巻く環境は大きく変わった。必要とされていなければ必要とされているところに行けばいい。そこで、自分のゴール(目標)を目指せばいい。

新しい環境で自分のためにボールを蹴る。サッカーへの向き合い方は日本でのそれとは違った。そんな彼らからは、一様にして「楽しい」という言葉が出る。しがらみのない、自分のためにサッカーができるこの“新しい”環境は、サッカーを始めた頃の純粋に楽しかった、あの頃に引き戻してくれた。

“新しい”環境を求めて日本を出た。そして、その環境でもボールを蹴る。日本では生活の一部のようにサッカーをしてきたが、環境が変わっても、その生活スタイルは変わらなかった。ただ、違う環境でボールを追うことで、あの「楽しい」といった初心を思い起こさせてくれたのかもしれない。前編の男性2人に続き、ここでは2人の女性の第二章を紹介する。

※本文の各インタビューは2023年9月前後に収録したものをベースとしている。
 


【サッカーがある新しい環境】


池田 千織(いけだ ちおり/Chiori Ikeda)
2000年1月13日生まれ、沖縄県宜野湾市出身。
サッカー歴:大山SC → 神村学園中等部と高等部 → 大東文化大学

 

2022年10月にオーストラリアのブリスベン、そして2023年1月にパースへ。Perth RedStar FC(National Premier Leagues Western Australia/NPL WA)には知人を介して過去のプレー動画を送り、翌月の2月に加入。そして、即戦力としてすぐに試合に出場した。

「大学を卒業して、サッカーには一区切り付けようと考えていました。そして、海外に出てみたい、と思っていました。行先のオーストラリアは“海外に行くならオーストラリア”と決めていました。パースを選んだ理由は海がきれいで、ビーチでサンセットが見られる場所だと聞いていたからです。ただ、もしチャンスがあればサッカーもしてみたいとも思っていました」と話す。

小学3年生から兄の影響を受けてサッカーを始める。中学、高校は鹿児島県のサッカー名門、神村学園中等部と高等部でプレー。高校卒業後、大東文化大学の女子サッカー部に所属。3年生の時は全日本大学女子サッカー選手権大会(インターハイ)で3位まで上り詰めた。神村学園の中・高等部、そして大学のどの最終学年でキャプテンを務めた。

所属のPerth RedStar FCでも攻撃の起点となり、クオリティの高さは一目瞭然だった。オーストラリア人選手に比べたら一回り小柄ではあったが、プレーではそれを感じさせなかった。「日本のサッカーとは違いました。オーストラリアのサッカーはコンビネーションというより、まずフィジカルといった印象です」とシーズンを振り返った。

2023年シーズンのチームは15勝2敗4引分でリーグトップ、そしてファイナルシリーズも連勝して、見事チャンピオンに輝いた。「新しい環境で生活をしてみたく、そこにサッカーもあればやりたい、という感じでした。当然チームのためにプレーしていましたが、自分のためにプレーもしました」と語った。

チームより自分を少しばかり優先し、楽しむサッカーへとギアを入れ替えたのは“新しい”環境だったからかもしれない。


 


【新しい環境ではサッカーはその一部】


鏡 玲菜(かがみ れいな/Reina Kagami)
1998年10月29日生まれ、茨城県取手市出身。
サッカー歴:宮和田FC → つくばFC → 大東文化大学 → 琉球デイゴス

 

サッカーは6歳から始めた。高校は男子サッカー部でも名門の、東京の修徳高校でボールを追いかけた。そして、大学は大東文化大学女子サッカー部に在籍。4年次には中心選手として全日本大学女子サッカー選手権大会(インターハイ)で全国3位に。大学卒業後は、沖縄の九州女子サッカーリーグ1部所属の琉球デイゴスでプレーした。

「大学卒業後、沖縄の地を選んだのは海が好きだったからです。そして、次は海外でサッカーがしたいと思い、オーストラリアへ来ました。ただ、沖縄の時もオーストラリアの時も、サッカーだけにはなりたくなかったんです」

学生時代、気が付けばサッカーが生活の中心だった。日本代表の“なでしこジャパン”も一時期は目指した。ただ、大学卒業後の進路はサッカーだけの環境をあえて選ばなかった。だから、沖縄に行った。

「もちろんサッカーはやりたいと思っていましたが、いろいろな環境で、そしてその環境でサッカーができるのなら、その方が良いなと思ってやってきました。サッカーのためにそこへ行くのではなく、そこにあるサッカーをするといった感じですね」と話す。

前出の池田さんとそのお友達を介して2023年3月、オーストラリアのパースへ渡る。そして、池田さんと同じ「Perth RedStar FC」に加入して、5日後にはスターティングメンバーとして試合に臨んでいた。

シーズンを通してリーグ得点王をひた走り、最後の数試合でゴールデンブーツは逃すも、チームメートの池田さんからのパスがホットラインとなりゴール量産によってチームを優勝に導いたことは、地元メディでも多く報じられた。また、リーグ戦終了後、池田さんと共にリーグ選抜チーム(NPLW WA Team of the Season 2023)にも選出され、地元プロチームのパースグロリー(Perth Glory)とも親善試合を行った。

そして、今年の2024年シーズンもチームを優勝に導き、リーグ得点ランクも2位となり、昨シーズン同様、リーグ選抜チームにも名を連ねた。

日本でも高いレベルでサッカーをしてきた。新しい環境というパースでもリーグにおける注目選手としてコンスタントに結果を残した。ただ、本人は「これからもサッカーは日本ではなく海外で、かなと思っています。海外なら、まずはオーストラリアと決めていましたが、今はこの環境でのサッカーを本当に楽しんでいます」と話す。サッカーが全てではなく、サッカーはこれからの人生を歩むための足元を照らす光のようなものかもしれない。


 


『オーストラリアのサッカー(女子)』
オーストラリアのサッカーにおける最上位リーグはA-League Women(Aリーグ・ウィメン)。そして、その下には各州に州リーグがある。西オーストラリア州にはNational Premier Leagues WA Women(ナショナルプレミアリーグWAウィメン)というリーグがあり、8チームが所属し、さらにその下にはFootball West State League Division 1(フットボールウェスト・ステートリーグ・ディビジョン1)と続く。


【文】 今城康雄(いまなりやすお)。パースの日本語メディア「The Perth Express」の代表兼、編集長。2005年のAリーグの開幕以来、リーグ公認のメディアとなっている「The Perth Express」のジャーナリストとしても、パースグローリーのホームゲームはほぼ全試合、記者席より取材を重ねてきた。また2020年は、パースグローリー日本地区担当マネージャー兼日本語通訳として太田宏介氏(吉本興業所属、現FC町田ゼルビア・アンバサダー、ジョガスポーツカレッジ代表、Jリーグ選手OB会副会長)をサポート。また、2022年には当記事(前編)の今田海斗氏の通訳も行う。

 


“新しい”環境でサッカー。キャリアの第二章はパースから(前編)はこちらから!


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