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【新型コロナウイルス関連】日豪物流業界のパイオニア。死と向き合い、激動のパンデミックの中を生きる。



 
昨年、2019年の8月に癌の告知を受けた。その後、自然療法や抗癌剤治療を経て、癌の摘出手術を受けるが、世界はパンデミックへと突入していた。病魔と闘いながらも、物流業界の先駆者としてパンデミックの中を生きる、三辻孝明さんにお話を伺いました。

死と向き合った。襲いかかった病魔は人生観を変えた。同時に、新型コロナウイルスは人の流れを止め、物流も最小限にしてしまった。「日本に荷物を送り、豪州国内外引っ越しを手掛ける『CUBE IT AUSTRALIA』」のCEO(最高経営責任者)の三辻孝明さんに、病気を通して気づき、考えたことから、新型コロナウイルスによって受けたビジネスへの影響についてお聞きしました。

<インタビュー:2020年6月>

 
【パースエクスプレス編集部】昨年の8月、癌の宣告を受けた時のことをお聞かせ下さい。

三辻さん:「パースエクスプレス・ウェブ版の読者の皆様、初めまして。『CUBE IT AUSTRALIA』の三辻孝明と申します。どうぞよろしくお願いします。

癌は、ステージ3でした。昨年の2019年いっぱいまで抗癌剤治療を行いましたが効果が見られず、腹膜への転移も複数見られたため、今年の1月に予定されていた胃の摘出手術を行うことができませんでした。そのため2月中は日本に行き、執刀医と病院を探し歩きましたが、見つからず。3月にこちらオーストラリアのシドニーに帰国し、19日に延命のため胃と十二指腸に転移した癌の摘出手術を受けました。」
 
 

<執刀医探しに家内と日本へ>
 
 
手術までの心境はいかがだったですか?

三辻さん:「3月19日は私が入院していた病院では、コロナの影響でシアターの使用が最後の日だったのです。こちらでシアターとは、手術室のことです。その最後の手術が私ということで、23時に終了したのですが、翌日午前3時にICUで目覚めて以来、私自身は生まれ変わったという感覚で、この3ヶ月ちかくを過ごしてまいりました。手術を受ける直前まで、朝昼晩、痛み止めのモルヒネを打ち続け、終活のために医療チームの助力で遺書や遺言を作成し、お見舞いに来る知人に今生のさよならを伝え、家族と抱き合って泣き明かすような日々でしたので、こうして今、インタビューを受けて文字を書いていることすらも夢のようです。」
 
 
術後はいかがですか?

三辻さん:「今は、術後3ヶ月になろうとしていますが、幸い体調は良好で、少しずつですが歩行をしたり、リハビリを続けているところです。もちろん、まだ腹膜には転移したままの癌が複数残っているわけですが、あまり悩んでも仕方がないので、そのことは考えないようにしています。」
 
 

<病気になる前、30年続く家内のキッチン床屋さんで>
 
 
大病を患っているさなか、世の中はパンデミックへと突入しましたが、今回の新型コロナウイルスで仕事にも大きな影響があったのでは?

三辻さん:「はい、影響はあります。今なおパンデミックの終焉の見通しが立たないまま、人と物の流れが滞ったままです。このパンデミックの影響で、観光客をはじめ留学生やワーキングホリデーの若者を含む人の流れが止まってしまったことで旅行業界に限らず、物流の業界もダメージを受けています。」
 
 
貴社の業務状況を教えて頂けますか?

三辻さん:「弊社は、航空便で小荷物の国際宅配便サービスを提供していますが、3月26日にシドニーからカンタス航空の最終便が羽田空港に飛んで以降、荷物を運ぶ飛行機がほとんど飛んでいません。ただ、羽田空港向け日本航空の特別便枠を臨時で確保していますので、20日前後いただければ、日本のお届け先までの配達が現在も可能です。パースでお受けしたお荷物はシドニーまで陸送して、その臨時便に載せますので期日についてはその都度、パース支店までお確かめ頂ければと思います。」
 
 
引っ越し業務も取り扱ってらっしゃいますよね?

三辻さん:「はい、豪州国内外の引っ越し荷物については、現在も通常通り横浜航路は確保していますので、全豪のすべての州で通常の海外引越しはお受けしています。」
 
 
今後、貴社の業務はどのようになると考えていますか?

三辻さん:「弊社の主力商品である小荷物の国際宅配便サービスも当面は利用者が60%前後減るものと予想していて、現状の郵便局よりも安い価格でのサービスを維持ができるかどうかが、今後の課題になると考えています。」
 
 
大病にパンデミックといった状況下で、ご自身にとっての仕事との関わり合い方に変化は生じましたか?

三辻さん:「病気をして生まれ変わったような感覚を知り、この15年、ずっと戦争状態だった競合他社さんと、もうそろそろ仲直りできないかなと思っていました。すると、近々に先方からお話があり、このご時世でお互いに競い合うことも大事だけれど、力を合わせて日本からの同胞のためにも、豪州での物流の灯火を消してはいけないのではないかということになりました。

そこで、弊社がその競合社さんの下請けとして作業を請け負うことで、先方も人員の削減が実現でき、パンデミックを乗り越える一助になるという手打ちが最近、業務提携として実現しました。このように自然淘汰が進む中で、弊社のポリシーである“幸せを開発しよう!”をこれからも、みなさんと一緒に実践していけたら素晴らしいなと考えています。」
 
 

<病気を患って入院中の今>
 
 
自然淘汰という意味では、このパンデミックは私たち人類にも変化をもたらしたと考えますか?

三辻さん:「このパンデミックは、今までの私たちの文明のあり方に「みなさん、一度立ち止まって考えてみませんか?」というメッセージを投げかけているように思います。

近未来の展開として最も理想的なものは、これまでのお金、経済を追い求める消費型の社会から、不便を受け入れながら、環境を大切にする社会に推移していくことだと思います。例えば、飛行機の機体や主翼全てをソーラーパネルで覆うことで、モーターがプロペラを回して飛ぶ4、50人乗りの飛行機なら、すでに実現が可能なところまできています。ただし、ジェット機に比べ1時間で到着するところが2時間以上かかってしまうということになりますが、化石燃料を燃やす必要がないため、大気汚染、CO2削減に大きく貢献することができるのです。

ZOOMなどによるミーティングも含めて、私たち自身がある程度の不便を受け入れることができれば、もう、スーパーマンのようなモーレツな仕事人間を体現する必要はないのではないかというところにきています。“お金から環境へ”がキーワードになったら、本当に素晴らしいことだと思いますし、このパンデミックは、免疫力を失い始めた地球環境がそのチャンスを私たちに提供しているようにも思えるのです。」
 
 
最後に、ご自身のかじ取りも変化されましたか?

三辻さん:「癌の宣告を受け、手術を経て、リハビリを続けている今、毎朝明るくなって目覚める時、もう1日生きられると感じられる喜びは、今までに自分自身にはなかった感覚です。追いかけられるように家族や仕事、身の回りのことに夢中で、生きていることと向き合うことが本当にありませんでした。ですので、ここからは生まれ変わった命をいとおしみながら、紡いでいこうと思っています。

今は、自分自身が生後3ヶ月になろうとしているところです。35年連れ添っている家内とも、自然にハグしたり、手をつないで散歩したりできる関係に戻れて本当に嬉しいですし、息子たちからの深い愛情にも生きる勇気をたくさんもらっているところです。

最後に私事ですが、この10ヶ月、静かに死を見つめながら、久しぶりに文章を残すことができました。「硫黄島ダイアリー」という表題で、レポートに毛の生えたようなものですが、過去の自分自身の経験を形にできたことは、少し肩の荷が降りたような気持ちです。よろしければ、ご一読ください。」
 
 
今後、本ウェブサイトで三辻孝明さんの「硫黄島ダイアリー」を連載していきます。近日、掲載予定となっていますのでご期待ください。
 
「硫黄島ダイアリー」
<第一章『硫黄島』1話>
<第一章『硫黄島』2話>
 

【三辻 孝明(みつじたかあき)】

【三辻 孝明(みつじたかあき)】

「CUBE IT AUSTRALIA」のCEO(最高経営責任者)。早稲田大学人間科学部環境科学科卒業。1989年より豪州在住。

「CUBE IT AUSTRALIA」
全豪8都市で日本人スタッフによる安心丁寧な梱包、搬出、搬入作業のサービスを提供し、オーストラリアから日本へ送る小荷物の国際宅配便や、豪州国内外の引っ越しを手掛ける。ウェブサイト:www.cubeit.com.au/







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