新型コロナウイルスの影響で3月23日から飲食店の営業がテイクアウェイ(Takeaway)のみとなったが、西オーストラリア州では約2か月ぶりの5月18日より制限付きではあるが、ダインイン(Dine In)の営業が再開される。しかし、この約2か月間のテイクアウェイのみの営業で経営に大打撃を受けたお店も少なくない。そして、飲食店に従業員として働いていたが売り上げが激減したことで、解雇となった人も同様に少なくないだろう。そんなお店の事業主や解雇となった従業員にとって、収入もないのにお店や住居の家賃は発生する。その家賃について西オーストラリア州政府が救済策を発表した。
ここでは、パース在住20年の日本人タックス・エージェントの鈴木竜一郎さんに飲食店に限らず、商業用と住宅用の賃借に対する西オーストラリア州政府のサポート内容についてそれぞれに分けて伺った。
インタビュー:5月1日インタビュー/写真:全てイメージ
<商業用賃借について>
質問:まず、商業用の賃借物件でのサポート対象者と内容について教えて下さい。
鈴木さん:「基本的に業種は関係なく、全ての事業が対象となりますが、まずは3月以降に家賃が払えなくなっても大家が強制的退去させることはできない、デポジット(保証金などの預かり金)などを家賃の支払いに回してはいけない、というのが法制化されています」
質問:ただ、いずれにしても支払えずに滞納してしまった家賃について、今後はどのようになりますか?
鈴木さん:「ここからが全ての事業から、JobKeeper Payment(※関連記事はこのリンクから)に該当する事業というのに振り分けられます」
質問:では、もしJobKeeper Paymentの該当事業の場合はどのようなサポートが受けられますか?
鈴木さん:「大前提は、大家との話し合いが必要となります。そして、売上が落ちたパーセンテージの半分を最低でも支払い免除してもらえ、残りは分割で支払うというものです。例えば、売上が80%減少した場合、40%を免除してもらい、残りの60%を残存する賃貸契約期間分へ分割で割り振って支払うというものです。契約期間が12か月未満の場合は分割額が大きくなるので、その場合は最長12か月間で支払えばよいというものです。当然、大家からどれだけ売上が減ったかという証明のようなものを提出してほしい、という申し出はあるでしょう」
質問:水道光熱費(Outgoing)はどうなりますか?
鈴木さん:「そこは、借主負担となります。ただ、大家側の土地税(Land Tax)や保険(Insurance)などが減免されれば、大家はそこで利益を得ることはなく、借主に返還しなければなりません」
質問:では、滞納分の家賃支払いの再開はいつ頃からとなりそうですか?
鈴木さん:「このコロナ渦が落ち着いて、普通に営業活動が戻ってからとなるでしょう」
質問:いずれにしても、大家さんは下がった売上分の半分のパーセンテージを“泣く”ことになるんですね。では、大家も何かしらのサポートは受けるんでしょうか?
鈴木さん:「銀行から借り入れをしてその物件を所有している場合は、金利を下げてもらう、または支払期間を先延ばししてもらうといった銀行との交渉をしていると思います。大家にも今回のこの件でそのようにダメージを受けるところもあれば、借り入れがなければただ利回りが落ちたというところもあると思います。ただ、大家でも大きくダメージを受けていれば、同じくJobKeeper Paymentの該当になっているところもあるでしょうし、そこでサポートは受けることになるでしょう。例えば飲食店の場合、今回は政府の命令で“お店を閉めろ”と言われたので、売り上げがなくなり、固定費が払えないのは当然です。つまり、店側も収入が減り、大家も収入が減る。なので、みんなで“泣く”ところは“泣く”というところですね」
<一般住宅用賃借について>
質問:では、一般住宅の賃借についてお聞かせ下さい。まず、対象者は?
鈴木さん:「3月20日以降に失業した人というのが前提です。つまり、商業用の場合はJobKeeper Paymentの該当事業でしたが、この一般住宅用はJobSeeker Payment(※関連記事はこのリンクから)の該当者となります」
質問:JobSeekerの該当者となると、例えばワーキングホリデーメーカーや留学生は対象外となってしまいますか?
鈴木さん:「はい、ここではワーキングホリデービザや学生ビザ保有者は対象にはなりません。JobKeeper Paymentの該当事業も対象には含まれません」
質問:他に該当するための条件はございますか?そして、どのように申請するればいいのですか?
鈴木さん:「他には、10,000ドル以上の預金のない人が条件となりますが、申し込みは5月1日以降からオンラインで申請するようなかたちになっています」
質問:期間と救済額はいくらになりますか?
鈴木さん:「期間は9月28日までで、救済額は最大で2,000ドルが家主に支払われることになりますが、ここで大切なのは商業用の場合と同じく、家主とまず家賃の交渉をして、値引き交渉が妥結していることが前提となります。妥結していない場合は、消費者保護団体のConsumer Protectionに交渉を仲介してもらうことになるでしょう。例えば、家主さんが1,500ドルを値引いてくれた場合、1,500ドルが家主さんに支払われるわけですが、この一般住宅用に関しては該当者を助けるわけではなく、該当者が申請して、値引いてくれた該当者の家主さんを助けるというものです」
質問:ちなみに、シェアハウスの場合は?
鈴木さん:「賃借契約者が代表して申請するようなかたちになるでしょう」
質問:最後に、商業用や一般住宅用共にまずは大家や家主と交渉することが今回のサポートには必要でしたが、交渉する際の注意点はございますか?
鈴木さん:「法律的な内容まで踏み込んだ交渉となれば、弁護士の力を借りなければならなくなるかもしれませんが、“これだけの事業で売り上げがこれだけ下がった”と大家に申し入れるとか、“数字を証明して家賃をいくらにしてほしい”と家主へ交渉するといったことは、私たちのようなタックス・エージェントでもお手伝いできると思います」
<参考資料>
Commercial tenancies – COVID-19 response
https://www.commerce.wa.gov.au/consumer-protection/commercial-tenancies-covid-19-response
Residential Rent Relief Grant Scheme
https://www.commerce.wa.gov.au/consumer-protection/residential-rent-relief-grant-scheme
鈴木 竜一郎
Japan Australia Settlements代表
1987年、 早稲田大学商学部卒業。 2000年にカーティン工科大学MBA卒業後、 2001年にエディスコーワン大学会計学修士卒業。
□ 登録税務代理人:25479352
□ 登録移民申請代理人: MARN 1173457
□ ファイナンシャルアドバイザー(AFP)