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パースエクスプレスVol.234 2017年7月号

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≫ スペシャルインタビュー「子どもの発達障害が疑われた時子どもの発達に関して親ができること」

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 社 会
 

スペシャル・インタビュー
子どもの発達障害が疑われた時、子どもの発達に関して親ができること

九州大学大学院人間環境学研究院 増田健太郎教授 インタビュー

取材協力、提供:日本語医療センター/引用文献:平岩 幹男 (2015). 自閉症・発達障害を疑われたとき・疑ったとき(合同出版)



近年、メディアで「発達障害」という言葉が多く露出するようになった。ただ、「発達障害」と言っても「自閉症」や「アスペルガー症候群」、「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」や「学習障害 (LD)」などその種類・症状は様々となっている。ここパースでも例外ではく、「発達障害」と診断された子どもやその診断に悩む親がいる中、教育現場の課題を臨床心理学や教育経営学の観点から研究をしている九州大学大学院人間環境学研究院の増田健太郎教授がパースを訪れ、在パース『日本語医療センター』のマネージャー、千綿真美さんがその「発達障害」について話を伺った。


●今回、なぜパースにいらしたのですか?

今回は『日本語医療センター』のマネージャー、千綿さんから是非ともとお願いされた発達障害の子どもたちの親子面接のため、また現在は不妊治療とカウンセリングの研究もしていますので、そのクライアントさんの面接調査と産婦人科医の調査のために来ました。オーストラリアは不妊治療の先進国ですので、2年前にも一度、パースの不妊治療の研究でパースに来ています。



●パースの印象をお聞かせ下さい。

都会過ぎないパースの居心地の良さを実感しています。そして、公園が多く、静かで美しい街だと思います。人も優しいし、穏やかで、しっとりしていますね。夜、街が静か過ぎて、皆さん何をしているのかなと不思議です。きっと家庭で楽しんでいるのでしょう。考えてみれば、深夜までいろいろな店が開いている日本が異常なのでしょうね(笑)。



●パースのお気に入りの場所は?

Heirisson Island の野生のカンガルーがいる場所です。前回も行ったのですが、今回もカンガルーにずいぶん癒されました。そこから見るスワン川とパースの街並み、夕陽は最高です。



●現在の教授職になるまでの経歴を教えて下さい。

大学を卒業した後、就職活動もせずに1年間、海外のいろいろな国や日本国内を旅していました。人生は長いのだから若い時の1年間はいろいろなところに行き、いろいろな人と出会って話を聞こうと思ったからです。日本国内はヒッチハイクで周っていました。漁船に乗ったり、牧場で働いたり、とても新鮮でした。その1年間の経験が今の自分の土台を作っているように思います。研究者になろうと思い大学院を受けたのですが、見事に落ちて、生活していくために教員になりました。その後、やはり研究をしたいと思い、九州大学大学院人間環境学研究院修士課程・博士後期課程を出て、私立大学の助教授を経て、その後九州大学大学院の准教授・教授になりました。



●なぜ、臨床心理学や教育学を学ぼうと思ったのですか?

ある不登校児との出会いです。母子分離不安の小学校3年生の不登校の子どもさんで、学校まではお母さんと来るのですが、お母さんと離れるとパニックを起こす子どもさんでした。その学校の先生方はとても関係性がよく、皆でその親子を支えていました。それからその方面をもっと突き詰めていきたいという思いが強くなり、学校組織文化の研究のために教育経営学、不登校の子どもの心を理解するために臨床心理学を学びました。



●今回、パースで子どもの「発達障害」に悩む親御さんたちと面談をされて、いかがだったですか?

親御さんたちがとても熱心であること、子どものことを真剣に考えてらっしゃることを肌で感じました。また、臨床心理の専門家とは何かを改めて考えさせられました。現在は、大学院やクリニックでうつ病や自殺念慮、不妊症の方々のカウンセリングが主で、子どものセラピーに関しては指導者の立場になることがほとんどです。今回、親子が同じ部屋で、子どもさんの遊ぶ様子を見ながら親御さんの話を聞くことで、子どもさんの行動観察と親御さんの悩みとニーズを同時に対応することの大切さをつくづく感じ、学ぶことがたくさんありました。日本ではなく、外国で暮らしている方々の子どもさんについての悩みは、大きいものだと思います。ニューヨークやフィンランドでも相談を受けましたが、外国に暮らす日本人の子どもさんの対応ができるセラピストが必要だと実感しました。



●“親と子の繋がり感”が大切だと何度もおっしゃっていましたが、どうしてでしょうか?

 “親と子の繋がり感”とは、一言で言うのは難しいのですが、親は子どもが自分を求めている、愛していると感じられること、子どもが自分は親から愛されていると感じられている「愛情」のことでしょうか。親はいつでも子どものことが心配になり、できないところをできるようにしようとつい熱心になりがちです。しかし、できないことを一方的に注意される、教え込まれるだけだと、子どもの親に対する繋がり感が薄れます。そして、子どもは「愛する親に喜んでほしい」と思う気持ちが薄れ、できるようになろうとしなくなるのです。時に厳しくしても根底に繋がり感があれば子ども達は成長できるものだと思います。これは親子でも夫婦でも、会社の同僚でも医師と患者でも、人間同士の間では同じで、まずは繋がり感、信頼関係がすべての人間関係の基本になると思います。



●褒めて育てることが大事、厳しくしつけることが大事、様々なことが言われますがどう思われますか?

結論から言うと両方大事です。褒めてばかりいると悪いことをした時に修正ができなくなることがあります。でも、厳しく躾けてばかりだと、子どもの自ら成長する芽を摘んでしまうことにもなります。“厳しいけど優しい”あるいは逆に“優しいけど厳しい”そんな親や教師、上司が求められているのではないでしょうか。



●最後に、子どもの発達に関して親ができることは何でしょうか?

以下は、『自閉症・発達障害を疑われたとき・疑ったとき“不安を笑顔に変える乳幼児期のLST/(著)平岩幹男』から、子どもとの繋がりをつくるために親ができることのポイントを抜粋しております。これは「発達障害」など問題もない子どもにでも親子の良い関係をつくり、子どもの成長を助けるために役に立ちますので、ぜひ参考にしてください。子どもの一番の味方であり、成長を促すのは親御さんです。ただ、親御さんはセラピストではありません。自分たちが疲れないように、毎日少しずつがコツです。無理強いは親御さんも子どもも長続きしません。


今回、【聞き手】としてインタビューに臨んで頂いた千綿真美さんにもご意見を伺った。

 私も長男が3歳の時に重度の言葉の遅れと「発達障害」を指摘され、数々のアセスメントとセラピーに通ってきました。5歳になっても、まだ日本語も英語もまともに話せず、何が悪かったのかと考えては泣き、どうしたらいいのか悩んでは泣いていました。幸い、Language Development CentreにYear 1(小学1年)から通い、1、2年のうちに英語での会話がかなりできるようになり、Year 4(小学4年)からはまたローカルの普通校に通えるレベルに成長。おかげさまで14歳になりましたが、学習障害もあり、まだまだ悩みはつきません。「日本語医療センター」の仕事を通して、あるいはプライベートでのお友達の中にも子ども達の「発達障害」で悩んでいる方々を見てきましたが、親としての悩み、焦り、ストレスは本当に皆同じです。

 今の世の中、子ども達のいろいろな障害に名前がつくようになり、インターネットで情報が氾濫し、“早期療育が大切”と言われ、数多くのセラピーがあります。何が本当なのか、良いのか悪いのか、親も悩んで混乱するばかりだと思います。これは障害の診断を受けた子どもの親だけではなく、すべての子どもの親に共通することだと思いますが、やはり他所の子と比べて、自分の子どもができていないことに焦り、ついつい力が入ってしまいますよね。

 今回、増田健太郎先生との数人の面談に同席させて頂きましたが、先生の話を聞いていて気持ちが楽になりました。「子どもの一番の味方であり、子どもの成長を促すのは親です。子どもが受けた診断名を考えるのではなく、その障害はその子の個性だと思って接すればいいんです。単純にその子ができるようになったことをその瞬間に一緒に喜んであげればいいんです。そうすれば子どもも嬉しくなって、もっとやろうとするから」と先生はよくお話されていました。ついつい忘れがちなことですが、他の子と比べた成長ではなく、その子のペースでの成長を見ていかなければいけないということをつくづく実感させられました。

 70代後半になった私の母が、私のことをまだ心配するのと同じで、きっと親の子どもへの心配や悩みはこの先もずっとずっと続くのだと思います。でも焦らずに、悩み過ぎずに、大きな心で見守ることのできる親になりたいものです。先生の今回のお話はいつも心に留めておこうと思いました。



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