【前回までのあらすじ】
沢田百々子、45歳。外はパトカーと警察官で厳戒態勢が敷かれていた。車内では、堰を切ったように泣き出す恩田正平と、拘束をとくよう説得する百々子。
沢田百々子、45歳。外はパトカーと警察官で厳戒態勢が敷かれていた。車内では、堰を切ったように泣き出す恩田正平と、拘束をとくよう説得する百々子。
第40走
Kyoto
「手をつないでくれないか」
正平からのその言葉に、百々子は上半身を少し起こし、「え?」と、もう一度聞き返した。
「手を、つないでほしい」
正平は、百々子の両腕の結束バンドを無理やり外した。車内でのその物音で外の警察官たちが反応したのか、一瞬、靴底で地面をこするような音が百々子の耳に届いた。
百々子はゆっくりと左手で正平の右手を握った。凍るように冷たく、紙のように乾燥した手のひらからは、これっぽちもの感情が伝わってこなかった。小さく、薄い手のひら。百々子はゆっくりと力を込める。正平は涙を流しながら、自分の足元を見つめていた。
更に力を込める。正平の指先がピクリと動いたのを百々子は感じた。その動きに反応して、百々子は一気に力を入れ、握った。
正平は更に上半身を揺らしながら大粒の涙で頬を濡らし続けていた。その正平を見ながら、あんなに憎んだ、自分の人生を台無しにした正平が、今度は愛おしくまでも感じた。この感情の高ぶりは自分でも予想していなかったが、次の瞬間、正平のことが知りたいとなぜか思った。
「だいじょうぶ」
「あったかいね」
「あなたのてがつめたすぎるのよ」
「このあたたかさ、ほしかったんだ」
一語一語を絞り出すように出された2人の会話は、遠い昔にすでにされたやり取りのようだった。
第41走者へ続く
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