パース・グローリーの2020-21シーズンがスタートした。例年では10月開催のAリーグだが、新型コロナウイルス感染症の影響のため今シーズンは2020年の12月28日に行われた試合を皮切りに開幕した。そして、2020年のACL(AFCチャンピオンズリーグ)に参戦していたグローリーは、開催国のカタールから12月5日に帰国。その後2週間の検疫を受けるとAリーグ開幕までには10日ほどしかないということで、グローリーの2020-21シーズンの開幕は特例で延期となっていた。当初は2020年1月16日がホーム開催で初戦が組まれていたが、更にずれて1月20日の水曜日となっていた。
<Aリーグを知る記者の視点 A League Football Journalist’s Point Of View> 今シーズン(A League 2020-21 Season)から、Aリーグを知る記者の視点から更に詳しくパースグローリーの試合についてお届けする。 |
2020-21シーズンAリーグ パースグローリー試合結果 Matchweek 4
Perth Glory 5 – 3 Adelaide United 会場:HBF Park
ホームでの試合は2020年3月8日以来となり、318日ぶりとなる。12月17日にグローリーへの入団発表を行っていた元日本代表のDF、太田宏介はオーストラリア入国後の2週間の検疫でホテルからのTV観戦となった。
2021年1月20日(水)午後6時20分、キックオフの時点で気温は27度。太陽の日差しはまだ強く、前日に1ヶ月以上ぶりに雨が降った影響か、湿度で体感温度は実温度以上だった。
<スタジアムに入場する際にはコロナウイルス対策の一環として、アプリ「SafeWA」などでスタジアム利用者として連絡先を登録するよう義務付けている(写真上)。観客入場者数の制限もあったが平日の夕方早い時間帯でのキックオフだったので、サッカーファンの姿もまばらだった(写真下)>
さて、プレシーズンとして臨んだACLのグローリーの試合を観戦したファンですら、名前を入力して選手を検索した人は少なくなかったと思う。それほどメンバーは前シーズンから総入れ替えとなっていた。しかも、どの選手もまだ幼顔。間に合わせで作ったチームなのかと思わずにはいられなかった。
あれから2か月弱。今日の初戦のスターティングリストに書かれている11人とサブの7人も相変わらず検索が必要な選手ばかりだった。なにせ18人中、10人が23歳以下の選手となっている。地元の若手選手を採用するといった大義名分より、コロナによって選手補強が不十分だったことが推測できた。
そういったチーム事情を考慮するとこのチームはどこまでできるのか、皆目見当が付かなかった。若さゆえに経験不足で立ち行かないのか、または若さゆえの向上心で爆発力を秘めているのか。3週間前に全てのチームはシーズンをスタートさせているが、グローリーだけはまさにベールに包まれていた。
一方、既にシーズン開始後、2試合を終え、1勝1引分けと好スタートを切っているAdelaide United。この日の対戦相手だ。昨シーズン準優勝で、今シーズンも前評判の良いMelbourne Cityと1月3日に戦っているが、2対0で勝利している。これらのデータを見比べても、やはりAdelaideに分が良く、周りの記者もそう予想していた。
<コロナウィルス感染症の影響で、約10か月ぶりのパースグロリーのホームゲーム。選手がメインスタジアムに向かって整列する>
さて、試合開始のホイッスルと共に10ヵ月ぶりにHBF Parkに選手たちが戻ってきた。開始早々1分、背番号9番のグローリーのストライカー、Bruno Fornaroliが右45度の角度からシュートを放つ。この早い働きかけは、この試合にかける意気込みなのか…。DFでボールを回し、前線にフィード。相手DFがクリアーして、セカンドボールを拾う。そして、中距離のシュートで得点する“いつもの”パターンとは明らかに違う。相手DF陣を“ちゃんと”崩して得点するシーンはそう多くお目にかかれなかったが、今日のグローリーはパスを回し、相手を崩そうとしている。筆者の予想外の展開となっていた。
そして、その流れで結果が生まれた。前半10分。背番号88番のNeil Kilkennyが前線に軽いタッチでパスを送る。ペナルティエリアに入ったそのボールにFornaroliと相手DF、22番のMichael Jakobsenが競り合う。更に後方から背番号1番のGK、James Delianovがその2人の選手に乗りかかるような態勢となり、Fornaroliは倒れた。主審は笛を吹き、PKの判定。2020-21シーズンのグローリーの最初の得点は、この試合のキャプテンを務めた背番号88番のNeil KilkennyのPKゴールだった。
<この日、キャプテンを務めた背番号88番のNeil KilkennyがPKを蹴る(写真上)。2020-21シーズンのパースグローリーの最初のゴールはPKから生まれた。キッカーの背番号88番のNeil Kilkenny <写真右から2番目> は同僚から祝福を受ける(写真下)>
その後の試合もグローリーペース。Adelaide Unitedに最初に訪れたチャンスは開始からなんと28分後。元オーストラリア代表の背番号9番、Adelaide UnitedのTomi Juricが倒され、FKを得る。しかし、蹴り込まれたそのFKは、グローリーDFに簡単に跳ね返された。
迎えた34分。グローリーの背番号23番、Dane Inghamからのクロスを基点に中央で背番号10番のAndrew KeoghとFornaroliが相手DFと競る。そのこぼれ球を背番号18番のNicholas D’Agostinoが落ち着いてゴールマウスに蹴り込んだ。
しかし、追加点を得たグローリーだったが、一つのミスが致命的な結果を招くお手本のような失点を喰らう。何でもない左からのクロスがゴール前へ。そのボールをInghamがクリアーミス。ほぼ空振りにちかい形で体の下にボールがこぼれ、そのボールを見逃さなかったAdelaide Unitedの背番号16番、Nathan KonstandopoulosがグローリーGK、背番号33番のLiam Reddyの動きを見ながらボールをゴールに流し込んだ。これで2対1となり、前半は終了。
ハーフタイムに隣の記者に「アデレードが悪いのか、それともグローリーが良いのか、どう思う?」と聞いてみると「初戦は予期しないことが起きる」と失笑していた。この記者も長いことグローリーの試合は観ている。良い意味で裏切られたという失笑だったと思う。
<コロナウィルス感染防止策のためスタジアムの至る所で係の人が消毒作業にあたっていた>
さて、後半に入り、まだ勢いはグローリー。前線の3選手、KeoghとFornaroli、D’Agostinoの“前に進む”意識が高い。その結果、後半6分にD’AgostinoからKeogh、Fornaroliへとつないで3点目を得た。また、後半15分にはKilkennyのFKに一番遠い位置にいたD’Agostinoがフリーでヘディングシュートを放ち、この日自身2点目で、さらに点差を3点とした。
選手交代も積極的に行う両チームだったが、交代で入った選手が両チームとも得点を決める。後半も残り6分のところで背番号20番のCarlo Armientoが角度のない所から右足を降り抜き、グローリーに5点目をもたらした。一方、終了2分前に脚の止まったグローリー選手の隙をついて、Adelaite Unitedの背番号17番、Mohamed Toureがゴールネットを揺らす。
試合会場のビッグスクリーンに今日の入場者数が6,125人と打ち出される。平日で、まだ陽が高い時間帯からのキックオフ、そしてコロナ感染を気にする人もまだいる中でのこの数字は、そこまで低くないのかもしれない。
<Zoonで行われた試合後の記者会見。記者の質問に答えるパースグローリーのRichard Garcia監督。Photo from Perth Glory Website>
試合はアディショナルタイム。そして、Adelaide Unitedが更に追加点で2点差まで追い上げるも、ここで試合終了。結局、スコアは5対3だった。試合後の監督への記者会見はZoomで行われた。筆者の「試合終了間際の2失点の原因は?」の質問にグローリーのRichard Garcia監督は「経験値かもしれない」と答えた。試合前に2択で予想した若さが吉と出るか、凶と出るか。この試合に限っては“若さゆえの向上心が爆発”といった吉の結果となったが、監督も言及した凶の“若さゆえに陥った経験不足”も実際に併存していた。次の試合もまだまだ静観する必要がありそうだ。
文:今城康雄(いまなりやすお)。パースの日本語メディア「The Perth Express」の代表兼、編集長。2005年のAリーグの開幕以来、リーグ公認のメディアとなっている「The Perth Express」のジャーナリストとしても、パースグローリーのホームゲームはほぼ全試合、記者席より取材を重ねてきた。2020年よりパースグローリー日本地区担当マネージャー兼任。
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