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【パースエクスプレス・マガジン】第30回 正平の車の前方には7台のパトカー。後方には4台のパトカー…


 
今回は、2名の投稿者の複数掲載とさせて頂きます。

【前回までのあらすじ】
沢田百々子、45歳。フロントガラスの向こうには無数のパトカーが止まっていた。そして恩田正平は、Risaに車から降りろと命じる。車内に残された百々子と正平は…。

 


 
第38走者
とーうま
 
正平の車の前方には7台のパトカー。後方には4台のパトカー。計11台のパトカーが配備されていた。Risaが車から外の世界に吸い込まれたのは、車の周りには既に警官が4人ほど息を潜めて待機していたからだった。
 
Risaの左ひじは柔らかくもごつごつした、大きな手で引っ張られた。次の瞬間、革手袋の大きな掌がRisaの口を閉じた。驚きでその場に腰を下しそうになったRisaは、転げるように大柄のその警官の膝に雪崩れ込むように座った。
 
「いつの間に…」
 
Risaの頭には、正平の死がとっさに浮かんだ。この警官とパトカーの数、正平には勝ち目がないと。そして一度は愛した夫、正平への哀惜の念が一気に胸を締め付けた。数分前は殺してやろうと思っていた相手に、情けが生まれた。
 
しかし、もう遅い。外の冷たい空気は、Risaの頭を更に覚醒させ、現実を突きつけた。

 


 
第39走者
廣田
 

太ももに流れたものは、正平の涙だと気付いたのは、それまで死んでいた目をしていたはずの正平が堰を切ったように大きな声で泣き出したからだった。
 
「こんなはずではなかった。ただ君を、百々子を、愛していただけだったのに」
 
正平の「愛している」という言葉を聞くだけでこれまでは、身動きが取れないほどの憎悪の感情に苛まれてきた百々子だったが、このときの百々子は「生きたい」という想いから、自然と口から言葉がでていた。
 
「拘束をといて、銃を渡して」
 
百々子は、この男にまだ優しい言葉をかけられる自分自身に驚きながらも、諭すような口調で続けた。
 
「あなたのことはずっと憎いと思っていた。私の人生を台無しにした人だと思っていた。でも、今はもうあなたを可哀想としか思わないの。もうやめましょうよ。銃を渡して」
 
正平は、言葉を噛み締めるように聞き、このように答えたのだった。

 
 


 

第40走者へ続く

 
 
 

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