Japan Australia Information Link Media パースエクスプレス

パースエクスプレスVol.231 2017年4月号

●「自分に素直に踊り、そして教える」佐藤 玲香さんのある日

West Australian Ballet(西オーストラリア・バレエ団)でプロのダンサーとして活躍する佐藤玲香さん。5歳より長野バレエ団でバレエを始め、同じようにバレエを習っていた姉の後を追いかけるように練習した。中学生の時は、母親が運転する車の中で夕食を摂りながら放課後にバレエ教室に通い、夜遅くに帰宅して高校受験の勉強をした。バレエの世界では、早い段階で進路を決めるケースが多い。佐藤さんも日本国内のコンクールで入賞を果たし、将来を有望視されていたが、「当時は、プロなんて…」と振り返る。高校を卒業後、日本のバレエ専門学校を首席で卒業し、ロンドンにあった提携校へバレエ留学を果たす。そして、ロンドンのバレエ団から声がかかり、そのままプロのバレエダンサーとしての一歩を踏み出した。その後は、南アフリカ、スペイン、そしてオーストラリアへと活躍の場を広げた佐藤さんの一日を紹介します。
取材協力・写真提供:West Australian Ballet
大井 成美さん
佐藤 玲香さん

(さとう れいか)

33歳

車
10:00 am
毎日午前中に行われる基礎トレーニングで、バレエ団の監督や振付師の補助、演出助手的な役割を担う女性、バレエミストレスから指導を受ける佐藤さん。
朝サーフィン
10:30 am
高校生時代にはバレエと勉強、生活のバランスを崩すことまでは考えてなく、プロのバレエダンサーを目指してはいなかった。ただ、バレエが大好きだったことと、母親の勧めでバレエの専門学校へ進学。その専門学校ではバレエ演習以外にも、舞踊史から解剖学、舞踊心理学やバレエ指導法まで学んだ。専門学校卒業後、ロンドンでのバレエ留学を経て、プロのバレエダンサーとなる佐藤さん。

職場
11:30 am
ロンドンのバレエ団に所属した時、「ポイントシューズが支給され、お給料を手にした時、自分がプロになったことを改めて意識しました」と話す佐藤さん。ただ「英語で履歴書や自分が踊っているビデオを作り、写真を撮って他のバレエ団のオーディションを受けることになった時は大変でした。バレエ人生で一番、あの時が辛かったかもしれませんね」

波乗り
1:45 pm
お昼休憩で同僚とランチを食べる。ロンドンからスペインのバレエ団へ入団が決まっていた佐藤さんだが、ビザ発給の問題で南アフリカのバレエ団に入団することになる。南アフリカでは3年間、プロのダンサーとして活躍する。その後は、スペインに戻り、スペインの別のバレエ団に所属していた時、同じくプロのダンサーのご主人と出会うことに。スペインのバレエ団には5年間、在籍した。そして、2015年10月にご主人とパースへ。

波乗り
2:30 pm
西オーストラリア・バレエ団への入団は、いろいろなことが重なった結果だった。中でも日本での専門学校の時の恩師がフリーマントル出身で、西オーストラリア・バレエ団に在籍していたことも影響した。

笑顔
5:30 pm
2017年3月29日からの公演「Genesis 2017」のリハーサルを行う佐藤さん。プロのダンサーとして一番難しいことは「こう踊りたいといった理想とそう踊れない現実との狭間で、自分と向き合うことです。その葛藤があるからこそ、良いものが生まれるのでしょうけど、その悩みは今でも、毎日、20年間、抱え続けています」と語る佐藤さん。
友達
5:45 pm
子どもの頃から両親に栄養管理や体力づくりを心掛けてくれた分、プロのダンサーとしては珍しく、ケガとは無縁だった。しかしパースに移住し、今のバレエ団で2度大きなけがをした。以前からも心がけていたが、それ以降、更に体のメンテナンスは怠らない。

パーティ
6:30 pm
シェアメイトと一緒に料理して、夕食を食べる。ご主人とは家に帰れば、ほとんどバレエの話はしないという。プロのダンサー同士で、同じスタジオで毎日一緒に練習していれば、思いや考えも異なる時がある。しかし、家には持ち帰らず、切り替えてパースの生活を楽しむ。

パーティ
パース移住後、ご主人と結婚式を挙げた翌月に自分の一番の応援者で、理解者だった母親が病気で他界した。4月1日が「Genesis 2017」の最終公演日となり、ネオクラシックの作品でその母親への想いを表現した佐藤さん。



●佐藤 玲香さんのある日曜日

ロンドンのバレエ団を後にして、南アフリカ、スペインのバレエ団で踊り、2015年に現在の西オーストラリア・バレエ団へ移籍した佐藤さん。そして2017年から、自身のバレエ教室もオープンさせた。「自分の人生にバレエがあったことで、良いこともそのバレエを通して知り、悪いことからはそのバレエが救ってくれました。これからもそのバレエとは“Be honest with yourself”で関わっていきたいと思っています」と話す佐藤さんの日曜日を紹介します。

波乗り
8:35 am
週末は、子どもや大人にバレエを教える佐藤さん。未経験者や経験者の子どもたち、健康や美容、エクササイズの一環で通ってくる大人たちにバレエを教えることで「自分が踊る時とは違った精神面が必要となりますが、教えている時間はとても楽しいです」と話す佐藤さん。

パーティ
「ダンサーの時は自分ばかりに焦点を当てていますが、教えるということは、自分ではなくなり教えられる生徒さんへ全ての力を注ぐことになります。そうすることで、自分も教えられていることに気づかされます」

波乗り
6:00 pm
休みの日は、サイクリングでビーチや公園に行ったりして、リラックスした時間を楽しむ。この日は、自分と同じ西オーストラリア・バレエ団に在籍する日本人プロバレエダンサー、松井学郎さんと野村千尋さん、ご主人と夕食を共にする。「ダンサーにとって、日々の生活で思うこと、考えることが全て踊りにでると思います。技術が全てと言う人もいます。ただ、バレエはスポーツではなく、芸術だと思います。私の中でバレエを踊る時、見てくれている人に何かを伝えたい、そうすることが一番重要だと思っています。“踊りを見て、涙が止まらなかった”と感想を聞いた時、一番の誉め言葉だと思っています。そして、これからは教える立場でも、その思いを子どもたちに少しでも伝えられたら良いなと思っています」と話す佐藤さんの日曜日でした。