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日本発豪州行き 蹴球戯言
Vol.229/2017/02

第31回「AリーグとJリーグの放映権 」


  現在のサッカー界における経済的な勝者の根源は“放映権料”にあることは明白で、今後もこの放映権をいかに高く売ることが、その国のリーグの隆盛の鍵を握っていることは事実でしょう。特に、欧州メジャーリーグの中でも勝ち組と思われるリーグは、莫大な放映権料の契約を更新しており、もはや天井知らずな感があります。さて、早速問題です。

【Q】AリーグとJリーグの放映権料はいかほどでしょうか?

【A】明確な根拠を示している資料は提示されていませんが、2016年の1年間のAリーグ放映権料は、A$40億(約36億円<A$1=90円計算>/Aリーグ発表から算出)、Jリーグが約50億円です(Jリーグ発表の2016年度予算から推測)。

 

 プロリーグ所属のクラブが営利企業である以上、経済的な営業努力が必要であり、即効性の高い効果として放映権料をいかに得るか、これが欧州もアジアでも変わらず重要なこととなります。競争力を高め、クラブを強くするためには、将来に向けた施設面の整備や育成も重要ですが、やはり良い選手を獲得することが最も即効性が高いはずです。そのためにクラブはスポンサーの獲得や安定した入場者を獲得するため、シーズンチケットの販売に営業努力を傾注します。

 この度、AリーグやJリーグとも新たなテレビ放映権料契約をしたことが発表されました。

 Aリーグは、過去からパートナーシップを組んでいるFox Sportとそれまでの4年A$160億(約144億円)の契約から、2016年より6年でA$346億(311.4億円)、1年でA$57.6億(約51.9億円)にて更新したことが発表され、JリーグはこれまでパートナーだったスカパーJSATとのタッグを解消し、英国デジタルメディア企業のPerform Groupと2017年から10年で2,100億円、1年で210億円という今までの約4倍という途轍もない契約を結んだと発表されました。どちらのリーグもかなり高騰しています。

では、これらが各リーグにもたらす恩恵とは。
・トップレベルの選手獲得の競争力向上
・経済的な事情による人材流出を防御
・入場料収入という不確定要素の高い収益に左右されない強化方針、
  設備投資目標及び事業計画が立てられる
・結果的にリーグへの活性化を導く
・リーグ優勝賞金が高くなりクラブのリーグ優勝へのモチベーション増加
・マーキープレイヤーの年棒上限が引き上げ(Aリーグ)

 しかし、メリットと同時にデメリットが発生することが予想されます。Aリーグでは、週に1試合フリーの試合放送があると発表されていますが、基本、ペイパービューによる視聴が原則であり、試合のパッケージ契約をするか、1試合毎に購入するか、お金を払わないでサッカーの試合をTVで観ることがますます難しくなっていくでしょう。Jリーグも基本同様で、Perform Groupの「DAZN」と月額料金1,750円の契約を結ぶ必要があります。

 また、Jリーグを視聴するには、今後ネット配信という形式上、画像の乱れやサーバー負荷によるパンク等が発生する可能性があり、TV視聴に慣れている世代には少々不安感があります。経済的に余裕のないサッカーファンが、益々試合をTV観戦し難くなってしまうのと同時に、新たなサッカーファンを獲得するためのハードルが少々高くなってしまうかもしれないのです。

 また、それとは別に、クラブ側の優先順位も変わっていくことが考えられます。賞金の増額が発表されている両リーグは、優先順位としてリーグ戦に重きをおくことが予想され、国内のカップ戦やAFCチャンピオンズリーグ(ACL)を軽視する傾向が強くなるかもしれません。リーグの発展を望むのなら、特にACLの実績を残すことが今後も求められますが、経営上リスクをかけずに収益性を高めるには、やはりリーグ戦に重きをおくことは十分あり得ます。

 放映権料が上がることで、国内リーグは盛り上がるが、それ以外の試合では魅力的なコンテンツになり得ない試合格差が生じてしまうことを筆者は危惧しています。ただし、方法論はともかくリーグが活性化することは良いことです。少年少女達は、身近なリーグでプロになることを夢見ることができ、サッカー人口は益々増えていくことでしょう。できるならば、この「放映権料バブル」が早々に弾けないことを望みます。

 今回のテーマは、Jリーグが途方もない金額の放映権契約を結んだことに触発され、お伝えしましたが、世界の放映権料と比べれば両国のそれは、まだまだサッカー発展途上国だと付け加えさせていただきます。現在の放映権料トップの英国プレミアリーグは、2016年から3年で95億ユーロ(約1.3兆円)、1年で31.6億ユーロ(約4,333億円)という両リーグと比べれば、さらに途方もない金額を放映権料から得ることになっていますので…。