Vol.223/2016/08
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本連載は3年目に突入しました。気分を新たに頑張ります!さて、オーストラリアと日本のサッカーシーンにおいてまだまだ歴史が浅いとは言え、シーンを主導する“誰か”が存在しました。サッカーシーンに限らず、様々な分野の歴史が物語っている通り、黎明期には独裁者的な“誰か”が強烈なリーダーシップをとり、発展を促してきました。それでは、問題です。
【Q】両国のサッカーシーンの発展を促したのは、“誰”でしょうか?
【A】オーストラリアは、フランク・レービ(Frank Lowy)氏、日本は長沼健氏でしょう。
では、なぜこの両者を筆者は、その“誰”としたのか説明します。まず、オーストラリアからです。
移民国家であるオーストラリアは、元々ヨーロッパ系の移民によりサッカーシーンが作られました。そして、各クラブの生い立ちは同じ系列の移民によって作られ、興行というより移民のスポーツといった民族色が強調されていました。Aリーグ発足前のNational Soccer League(豪州国内リーグ)も各チームが文化的側面を前面に出し、それゆえにサポーターやファン同士がぶつかり合うこともありました。しかし、その環境を劇的に変え、近代サッカーを発展させたのが、元オーストラリアサッカー連盟会長であるフランク・レービ(Frank Lowy)氏と言えるでしょう。「民族」から「地域」へ、そしてプロスポーツとしての興行面を成り立たせる大改革を起こした人物で、National Soccer LeagueからAリーグへの変革も氏が主導しました。
一方、日本でも同じように英国系の来訪者がサッカーを伝え広げましたが、近代サッカー発展を促した“誰か”は、Japan Football League(日本国内リーグ)創設を強く願ったデットマール・クラマー(Dettmar Cramer)氏でしょう。しかし、創設後の日本のクラブは企業の部活動の延長線であり、オーストラリアのサッカーシーンとは明らかな違いがありました。そういう意味では、Jリーグ発足のため尽力した元日本サッカー協会会長、故長沼健氏と言えるでしょう。
さて、両国においてサッカー環境の改革やプロリーグ創設のきっかけを作り、その後の発展を促した両氏ですが、その後のサッカーシーンも劇的に変わっています。日本では、子ども達の将来なりたい職業に“サッカー選手”がランクインをし続けています。それでは、現在のサッカーシーンを主導した両氏の功績を更に発展させるべき人物とは、“誰”になるのでしょうか?
筆者は、代表やクラブの選択すべきサッカースタイルの最終意思決定者である「監督」だと考えています。オーストラリアも日本も、サッカー連盟・協会とプロリーグ機構は独立独歩となっていますが、代表人気を永続的に維持し、プロリーグをいかに成り立たせるかは、代表人気が直結するプロリーグ機構がサッカー連盟・協会と2人3脚でなければなりません。しかし日本において、サッカー人気の起爆剤になる代表監督人事については、強力な権限をサッカー協会が持ち続けており、プロリーグで結果を残した監督が代表監督になれるわけでもなく、外国人監督を招聘し続けています。サッカーファンやサポーターが、リーグで結果を残した監督の代表監督就任をいくら強く望んでも叶いませんでした。2014年W杯惨敗後、監督更迭はもちろん、監督選任でサッカー協会の責任問題まで発展したことがありました。これは、今までなかったことです。実際、責任を誰も取ることなく、以後もサッカー協会主導の代表監督人事が何事もなかったように行われ、アジアカップ敗退後の「あの」醜態による責任も果たさずに現在に至ります。本来、反発してもよさそうなプロリーグ機構も沈黙し続けています。日本では、サッカー界の要職に学閥があった時代があり、横の繋がりが余りにも強すぎて、まさしく独裁体制が敷かれていました。プロリーグ機構のチェアマンは、外部の企業から招聘されていますが、いまだ強い発言権を有するのは今でも同学閥系列の人達だと筆者は感じています。
オーストラリアはと言うと、2013年からオーストラリアサッカー連盟がAリーグ内で抜群の実績を誇っていたアンジェ・ポステコグルー(Ange Postecoglou)氏を代表監督に招聘しました。氏以外の候補者もいたようですが、大幅な世代交代をしなければならない難しい時期に、リーグに精通している氏が適任と判断されたようです。筆者は満を持して招聘されたといった印象をもちました。2014年のW杯ではグループリーグ敗退に終わりましたが、2015年のアジアカップで優勝を果たしています。サッカー連盟は、W杯後の氏による続投意思を変えず、結果的に成功をしていると言えるでしょう。日本とは対称的です。
黎明期を過ぎつつある両国で、主導者や監督でまずまずの結果を出してきているオーストラリアと、“これから”感のある日本ですが、特に日本においては今後、民主共和制への移行が必要だと筆者は感じています。“上手くいっている”感の強いオーストラリアは、その点は一歩先に進んでいるのかもしれません。筆者は、両国のサッカーシーンの益々の発展を祈願していますが、今後、主導者が切り開いた道を監督が踏み均していく上質な構造が築き上げられていくことを期待しています。いまだ発展途上で、多くの伸び代もある両国ですが、実際に発展を遂げられると筆者は強く信じています。