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日本発豪州行き 蹴球戯言
Vol.220/2016/05

第22回「オーストラリアと日本の審判」


 今回は「審判」です。 この審判について、オーストラリアや日本のみならず、欧州や南米の本場、その他全世界でも度々問題になることがあります。さて、問題です。

【Q】スポーツ競技において審判の判断が難しい時、ビデオ判定を採用しているスポーツがありますが、サッカーはいかがでしょうか?

【A】正解は、採用していません。ただ、ゴール判定については、FIFA(国際サッカー連盟)で導入しており、最初の試合は2012年12月6日の日本で行われた「FIFAクラブワールドカップ2012」開幕戦でした。

 さて、審判の判定により悲喜交々と感情が入り乱れるのは、プロスポーツの常です。オーストラリアも日本も、サッカーのプレーレベルや環境と同様、審判のレベル向上も長きに渡り課題とされてきました。審判の判定が正しいか否かをプレーを中断して確認するアメリカンフットボールやテニスなどといったスポーツはビデオ判定が導入され、一部機械化されています。

 サッカーも機械化が叫ばれて久しいですが、テクノロジーの導入は他プロスポーツほど進んでいない印象があります。人間が判断することなので間違いは当然起こり得る前提です。ただし、その間違いが重要な国際大会であったり、リーグ戦の優勝を争う重要な局面だったりすると、後に因縁を引きずる要因にもなります。かつて、FIFAが100周年を記念し、発売したDVDに「サッカーW杯10大誤審」なるものがありました。 長いW杯の歴史の中での10試合ですが、ほんの一度の判断が後世に汚点のように語り継がれてしまうのです。審判たるものは、冷静沈着、公正である裁判官のような職業(プロでない審判もいますが)であるのはもちろん、試合の演出家のような役割を併せ持っている職業とも言えます。

その審判が、イエローカードを連発し、試合をその都度止め、選手達の感情をうまくコントロールできず、乱闘騒ぎを引き起こしてしまうこともあります。その反対に、ある程度のラフプレーは流しつつ、選手達に語りかけ、感情をうまくコントロールしてスムーズな試合を成立させる審判もいます。筆者は、機械のような判定ではなく、審判の感情もやはり試合には必要であると常々考えてきました。そういった意味では、テクノロジーに頼るのはゴールラインを越えたか否かくらいのゴール判定におさめ、黒子としての演出家の役割を割かない方が良いと思っています。

 近年では、FIFAにて最優秀審判賞の表彰がされており、サッカーの本場以外の国からも続々とW杯本大会で笛を吹く審判が増えてきました。ひと昔からでは考えられないほど、審判の質と環境は良くなっていると考えられます。しかし、選手とは異なり、言うならば監督と同じようになかなか報われることの少ない職業が審判であることは否めないでしょう。優勝以外は結果が残せなかった監督と言われてしまうように、審判は黒子ゆえに名前が前面に出ることもなく、疎まれることは多くとも評価をされることはごく稀です。演出家として選手達の良いプレー引き出すために神経を尖らせ、感情をコントロールし、試合を成立させ、そういった試合を何度も重ねて評価を高め、W杯の決勝戦のような大舞台で笛を吹いて初めて、後世に名を残すことができます。けれども、そのような審判は本当に極一部で、そのような名声を極めるには、あまりにもハードルが高すぎます。審判のステータスは、かつてに比べれば確かに上がりました。しかし、今後もサッカーの興行を成り立たせるためには、後進の審判を育てる環境向上が必要となるでしょう。そして、選手達と同様にもっと評価されるべきだと考えます。

 5月2 日、公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)が、オーストラリアのAリーグと戦略的連携協定に至ると大々的に報じました。提携内容にも「審判の交流」が盛込まれています。審判の判断基準も国際的に統一され、ブレは少なくなってきている中、両国の審判の質と環境向上が期待されます。

 最後に、筆者が「審判の判定が微妙だった!?」と思われる試合を2試合、ご紹介します。読者も皆さんは、どう思いましたか? 1試合目は2012年、ブラジルW杯予選でオーストラリア代表対日本代表がブリスベンで行なった試合で、1点リードで迎えた日本が、ペナルティエリア内で背番号6番の内田篤人にファールの判定が下されました。その後、オーストラリアはPKを決め、試合は同点で終わりました。 2試合目は、2011−12シーズンのAリーグファイナルシリーズの決勝(スタジアムは奇しくも上記1試合目と同じくブリスベンのSuncorp Stadium)、パース・グローリー対ブリスベン・ローアの一戦。1対1の後半アディショナルタイムで、背番号10番のLiam Millerへファールの判定が下されました。その判定で得たPKを決めたブリスベン・ローアが2011−12シーズンのAリーグチャンピオンになりました。