Vol.211/2015/08
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季節が正反対のオーストラリアと日本ですが、皆さん、いかがお過ごしですか? 昨年の8月号(Vol.199)からスタートしたこのコーナー、2年目に突入しました。改めて、よろしくお願いします!さて、今号の質問はこちらです。
【Q】指導者や選手を育成するための教本がありますが、サッカー後進国であったオーストラリアと日本は、どの国を見本とし発展してきたのでしょうか?
【A】オーストラリアは英国、日本は西ドイツとアルゼンチンがベースとなっています。
オーストラリアでのサッカーは、移民のスポーツとして発展してきましたが、サッカーがオーストラリアに入ってきた頃の入植者のほとんどは英国系で、育成方法も英国系の指導者や選手達からのものとなります。近代のオーストラリア代表のサッカースタイルは、英国系の指導の影響を受けた賜物といえるでしょう。
一方、日本では「日本サッカーの父」と言われている西ドイツ出身のデットマール・クラマー氏が、日本サッカーの強化方法の礎を築き、発展させました。サッカー不毛時代の日本にやってきた最初の外国人コーチであり、指導方法についてもマクロ的に絶大な影響を与えました。しかし実際、日本の指導者がお手本にすべき教本は、アルゼンチンの物が多かったようです。そういった意味で、西ドイツとアルゼンチンという欧州と南米の両方から影響を受けたと考えられます。
ただ、現在両国の育成方法で目立った違いを見出すことは難しいかもしれません。それは、サッカーというスポーツのグローバル化、情報伝達技術の発展による各大陸のボーダレス化が要因でしょう。一昔前のサッカーは、大陸別に独自のスタイルがありましたが、その独自性が薄れ、指導方法や練習方法がオープン化し、各国の目指すべき目標が統一されつつあることも原因のひとつと考えられます。時代ごとに流行のスタイルや戦術は移り変わり、指導者の好みによってアレンジは加えらてはいますが、大まかなスタイルはどこの国も、どこの地域も似たようなものになりつつあります。
では、目指すべきスタイルやその指導方法に独自性がなくなりつつある今、指導者や選手の育成は、何が差となるのでしょうか?それは、それそれの環境面が与える違いとなるでしょう。
本誌このコーナーの第9回「オーストラリアと日本のサッカー環境」でも、この環境については多少触れましたが、例えば、日本では幼少期にはサッカーを楽しむことを教え、戦術的なことは二の次にし、チームプレーを教えるのではなく、個人技を磨くことに重点を置いている傾向があるようです。片やオーストラリアでは、日本とは違い練習用のグランドの確保はそこまで難しくなく、チーム単位での練習時間も取りやすく、個人技もさることながらチームとしての指導に多くの時間を費やせる環境、つまりプロフェッショナルな選手たちにちかい指導方法が選択できるのではないかと思います。
かつて、戦術的な面で革新的なスタイルを披露したオランダは、日本よりも狭小な国土で、人口比でも10分の1程度であるにも関わらず、優秀な指導者と選手を輩出し、今でも続けています。
それは、幼少期の指導方法に原点があります。まずはストリートサッカーで個人技を磨き、クラブチームで戦術的なことを徹底的に叩き込まれるそうです。近年、ストリートサッカーをする環境がなくなり、選手が育ち難くなっているとも言われていますが、それでも紛れもないサッカー大国として、オランダは今でも君臨しています。ストリートサッカー、クラブチームといった点においては、オーストラリアが今後、このオランダ方式を選択できるのではないかと筆者は考えます。
サッカー後進国が即効性のある強化をするため、「南米の様な奔放なスタイル」か「欧州の様な組織を重視したスタイル」のどちらを真似るべきかという議論が必要となくなった現在、オーストラリアと日本も環境にあった育成方法を選択しなくてはなりません。両国がお互いに良いと思われる部分を取捨選択し、影響を与え合いながら強化に結びつけられる様になれば良いと願っています。