Japan Australia Information Link Media パースエクスプレス

 

日本発豪州行き 蹴球戯言
Vol.210/2015/07

第12回「オーストラリアと日本の女子サッカー」


 オーストラリアと日本の女子代表が参加しているワールドカップ・カナダ大会ですが(本誌発刊時はすでに閉幕していますね)、準々決勝にて両国代表が相見えました。対戦は、がっぷり四つの好試合の末、日本代表が辛くも勝利を収めましたが、男子代表同様、今後の両国の対戦はハラハラ、ドキドキさせてくれそうです。では、恒例の問題です。

【Q】女子サッカー選手で現在、一番稼いでいる選手は、どこの国のどの選手でしょうか?

【A】アメリカ代表のアレックス・モーガン選手です。総年収が、約3億7,000万円だそうです。ただ、その年収の9割以上がスポンサーからの収入ということで、純粋なプロサッカー選手としてクラブから受け取る年棒は2,000万円前後と言われています。

 さて、近年ようやく注目度が増してきたと言われる女子サッカーですが、百年余の歴史を重ねてきた男子サッカーと比べると経済的にも、環境的にも決して恵まれているとは言えません。女子サッカー先進国と言われるアメリカのトッププロでも、年棒面でいえば男子プロサッカー選手に到底及ばない差が存在します。

 オーストラリアの女子サッカーリーグ「Wリーグ」は、現在9チームのクラブで運営されていますが、完全なプロリーグではなく、セミ・プロリーグです。日本の「なでしこリーグ」もプロリーグと呼べず、日本代表クラスの選手であっても昼間は仕事をし、生活の糧を得て、夜間にサッカーの練習をしているのが現状です。


 男女差別の撤廃が叫ばれてから幾年が経ち、男女の体力面の差を問わない女子プロが存在するスポーツもだいぶ増えました。例えば、テニスやゴルフ。選手個人や大会にスポンサーが付き、スポンサー契約料や大会賞金で稼げるスポーツです。

 では、女子サッカーは?

 日本では、女子日本代表が2011年のワールドカップ・ドイツ大会で優勝した後、代表の選手たちがテレビに出演し、急激に露出度が増しました。代表の中心選手は完全なプロ契約を結び、個人にスポンサーが付き、プレーすることに集中できる環境も整備されました。ただ、そのような恵まれた選手はごく一部であり、相変わらずサッカーからの収入がゼロの選手が多いのが実情です。


 そこで、両国共に完全なプロサッカーリーグに移行できない一番の要因を「集金力の欠如」と筆者は考えます。

 オリンピックやワールドカップといった国の代表が戦う試合では、観衆を呼び込めるようになり、その波及効果によって「なでしこリーグ」の観客増加現象も起き、かつて100人単位の観客数だったのが、1試合で2万人以上も集まる試合もでてきました。が、しかしワールドカップ優勝直後のその盛り上がりは長続きすることなく、ロンドンオリンピックでは銀メダルとなり、観客減少傾向に拍車をかけました。現在では、平均観客数は1,000人単位で推移しています。 一時上がった集金力も、今は下がりつつあります。


 そんな状況でも、いかに女子サッカーを恒久的に根付かせ、集客し、集金力を上げるかは、両国にとっての変わらぬ課題です。そこで筆者は、まずサッカー選手が海外へ活躍の場を求めることは自然の流れとしても、国内リーグを盛り上げるためにはスター選手の流出は絶対に避けなければならないと考えます。

 そして、クラブが企業クラブではなく、プロサッカークラブとして独立し、選手たちはクラブとプロ契約を結び、地域に根ざした啓蒙活動を地道に行い、適度にメディアの話題作りを演出し、サッカーファンを飽きさせない必要があると思います。それはクラブ単位ではなく、両国のサッカー協会も舵取り役になり、護送船団方式で運営すべきだと思います。

 また、競技レベルにも関係してきます。今回のワールドカップ本大会でも、明らかな実力差を感じた試合がありました。アメリカやドイツ、イングランド、フランスが女子サッカー強豪国として君臨していますが、同時にその国々にはレベルの高い国内リーグがあります。

 ただし以前、女子サッカー強豪国の代表選手たちですら、経済的な理由でセクシーなカレンダーを発売し、資金集めをしたことがあり、その涙ぐましい努力に愕然としたことがありました。オーストラリア女子代表も、そのようなカレンダーを作った過去があったと記憶しています。ポジティブに考えるならば、ファッションや女子にしか表現できない華麗さを強調すべきことも集客や集金には必要なのかも知れません。


 男子サッカーとの比較は、ナンセンスだとはわかっていますが、今回のワールドカップの試合後、日本代表のある選手がインタビューで「女子サッカーが文化として根付いた」と話していましたが、筆者もそうあることを念じております。両国の女子サッカー界に栄光あれ!


 追伸:本誌に連載して一年が経ちました。ここまで継続できたのは、本誌編集長をはじめ、締め切りギリギリまで私の遅筆にお付き合い頂いた本誌スタッフのおかげです。この場を借り、改めてお礼申し上げると共に、引き続き宜しくお願い致します。