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日本発豪州行き 蹴球戯言
Vol.201/2014/10

第3回「オーストラリアと日本の監督」


 早いもので連載3回目です!今回はオーストラリアと日本の監督事情についてお届けします。さて、早速ですが問題です。

【Q】オーストラリアや日本で監督を経験した人の中で、代表チームや欧州主要クラブ(6大リーグと言われているイタリア、ドイツ、スペイン、イングランド、フランス、オランダリーグ所属クラブ)を率いてW杯やリーグ戦での優勝経験のある監督は誰でしょう?

【A】まず、各国リーグから。Aリーグには残念ながらいませんでした。Jリーグでは、名古屋グランパスエイトで指揮をとったアーセン・ベンゲル氏が、ASモナコの監督としてフランスリーグでの優勝を果たしています。その後、イングランドのプレミアリーグにてアーセナルFCの監督としても優勝を経験しました。同じく名古屋グランパスエイトで監督を務めたセフ・フェルホーセン氏もリーグ途中から指揮を取ったオランダリーグのPSVアイントホーフェンにて優勝を経験しています。そして、ジュビロ磐田を率いたルイス・フェリペ・スコラーリ氏が、ブラジル代表の監督として2002年のW杯に優勝しています。

 また、両国の代表監督では、2006年のW杯の時にオーストラリア代表監督で、PSVアイントホーフェンの監督と兼任したフース・ヒディンク氏が、オランダリーグでの優勝を経験しています。そして2012年W杯の時、日本の代表監督でイタリアのリーグ、セリエAでACミランを優勝に導いたアルベルト・ザッケローニ氏もそのひとりです。

 両国のサッカー界は、“外国人監督”の存在で急速な発展を遂げました。ただし、一流の監督という条件では、上記質問の答えからでは5名しかいないことになります。そのうちのひとり、アーセン・ベンゲル氏ですが、ASモナコの監督在任中に欧州のトップクラブからオファーを受けていたにも関わらず、「やるべきことをやったという達成感と新たなモチベーションを生み出すために日本に来た(アーセン・ベンゲル自叙伝:勝利のエスプリより)」ということで名古屋グランパスエイトの監督に就任しました。日本でも結果を残した氏ですが、在任の2シーズン中、引き続き欧州のクラブからオファーが届いていました。そして、1年目と2年目ではそのオファーの数が激減したようです。結局、氏は欧州のクラブが日本での実績を加味しないことに気付き、続投を希望していた名古屋グランパスエイトより金銭的にも低いアーセナルFCのオファーを受けたのでした。一言でいってしまえば、これはクラブ間というより、リーグの“格”の差が生んだ事案と考えられます。

 ただ、その格については一朝一夕で変わるものではありません。“優秀な監督が来てくれないならば自国での監督育成を行なえばいい”といった考えもあります。しかし、それも難しいでしょう。なぜなら、監督は元々サッカー選手だった人が多く、その場合、AリーグやJリーグは歴史が浅いので、必然的に絶対数が少なく、その状況から監督になり更に優秀な監督が生まれるには時間を要するからです。また日本の場合、Jリーグが誕生する前、学校の部活動や企業のお抱えスポーツ部の監督は、教師や社員が兼任していて、指導方法などは個人の力量まかせでした。Jリーグ誕生後、職業監督が生まれ、指導方法も理論立てられましたが、経験値でいえば欧州のそれに叶うはずがありません。

 そこで、「格」や「歴史的な環境」を克服するためには、欧州などのサッカー最前線に自ら足を運ばせ、指導方法を教授することが最善の方法だと考えられます。本場で弟子入りし、指導方法を学んで、できれば欧州リーグにて監督デビューを果たし、凱旋帰国すれば自国の育成向上に寄与することになるでしょう。実は、Aリーグのウェスタン・シドニー・ワンダラーズFCの監督、トニー・ポポビッチ氏はかつて自身がプレーしたイングランドのプレミアリーグ、クリスタル・パレスFCの門を叩き、当時の監督の下、アシスタントコーチとして指導者の経験を積みました。日本では、J2の松本山雅FCの監督、反町康治氏がスペインのリーグ、リーガ・エスパニョーラのFCバルセロナへ指導者留学をし、教えを受けています。

 本場で学び、経験したことは、自国のサッカー界の発展に大きな力となるでしょう。ただ、修行して直ぐに代表監督というわけにはいきません。ならばまず、帰国後、自国のリーグで実績を作るというのはいかがでしょうか。Aリーグのブリスベン・ロアーFC、そしてメルボルン・ヴィクトリーFCで結果を残したアンジェ・ポステコグルー氏が、オーストラリア代表監督にまで登りつめた例もあります。そこで、1つのアイディアとして提案致しますが、今後の代表監督は『率いたクラブをリーグ優勝させた経験のある監督』という採用条件を作ってみたらいかがでしょうか。そうすれば、国内リーグの監督にとって、将来は代表監督というモチベーションを生み出し、またネームバリューに囚われず、国内の選手に精通した監督が代表選手を選出するといった効果も望めるでしょう。