第8回
【前回までのあらすじ】
沢田百々子、30歳。百々子が宿泊するバックパッカーで、数少ない日本人宿泊客の一人が何者かに襲撃された。幸いけがはなかったが…。 |
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第10走者
筆者:ミケ
女の事件と、あの謎の男。すべて関係あることだとしたら、次に危ないのは私かもしれない。facebookの写真を見ながら、あの男と事件のことについて考えていたのが祟ったのか、奴は再び私の前に現れたのだった。
「・・・いた!沢田百々子ちゃん!」
「ひぁあっ!な、なんなの!あ!あんた!」
バックパッカーズのソファに凭れていた私の向かいに座ったその男。
「俺、恩田正平っていいます」
「は・・・はぁ・・・てか、なんでアンタ・・・あ、恩田さん、私の名前、知ってるんですか」
「なんでも何も、俺ら、サンフランシスコで面識あるじゃないですか」
やはりだ。Risaが連れてきた謎の男で間違いない。
「それもですけど、俺、万里ちゃんの彼氏です。パースに来たのは彼女を追いかけて来たというのが正しいですかね」
「え?は?万里の彼氏?何それ!じゃあなんでRisaと一緒に遊んでたのよ!ていうか、なんでサンフランシスコにいた訳?」
「あー、あれは彼女がお酒おごってくれるって言ってたから。んで、あの時、俺は、サンフランシスコの水族館の海洋調査チームで働いてたんで、あの辺に住んでたんですよ」
「じゃあ、万里とは、どうやって付き合いはじめたの…」
「万里ちゃんは、その前に東京の水族館で一緒に働いてて、そこで出会ったんです」
飄々とした態度で私に次々話してくる彼に、怒りや恐怖を通り越して、もはや尊敬をしてしまいそうな気分だ。私はこの男の影に怯えながら、あまりにも澱んだ気分でこの数週間を過ごしていたというのに。
「それで、あなたの目的は?」
「そうだった。万里ちゃんから、『正ちゃん、モモと同じバッパーに泊まってるんだよね?モモのこといろいろ助けてあげて』っていう連絡を受けたんです」
「万里が・・・、そっか、なんかごめんなさい」
「え?なんで謝るの?」
「だって、私、あなたのこと、すごく怪しい人だと思って疑ってたから…」
「そうだったんですか。まぁ俺も普段から仏頂面だからいけないんですけどね」
「いえ・・・、あ、ところでこの前、ここに泊まってた女の子が襲われた事件、なんか知ってる?」
「あー、あれ?俺、それちょうどタバコ吸ってるところで起きた事件だったんですけど、あの子、ふっ飛ばされる前にイギリス人の男と口論してましたよ」
「でも、彼女はいきなり突き飛ばされたって…」
「それは、あくまでも自分は被害者だっていう主張をしたかったんじゃない?あの女の子、Northbridgeのクラブで、しょっちゅう男ともめてるらしいからね」
彼のその答えは、ガブから聞いた話とつながるところがあり、妙に納得してしまった。
「俺以外にもレオっていうスペイン人と、ケリーっていうベルギー人も一緒にタバコ吸いながら見てたから、なんか教えてくれますよ、多分」
彼はそう言って、ふうと息を吐いてから「飲み物、取ってきますね。あ、話したいこと、たくさんあるんで、ちゃんとここにいてくださいよ」と笑った。きっと私とそう歳は変わらないのだろうけど、その笑顔はどこか幼い顔で、人懐っこい印象だった。万里はああいう感じの男の人、好きそうだもんな。
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