第2回
【前回までのあらすじ】
沢田百々子、30歳。失恋を機にサンフランシスコ勤務の会社を辞め、ワーキングホリデービザで新しい自分に出会うため、パースを目指す。
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第2走者 筆者:パースエクスプレス編集部
「着いたぁー!いやー、しかし長かった」
パース国際空港に降り立った百々子は、長時間のフライトを終えて思いっきり伸びをする。彼女の住んでいたカリフォルニアとは、真逆の季節のオーストラリア。オークランド国際空港を経由して来た百々子にとって飛行機から出た瞬間に感じた寒さは、思わず小さな悲鳴を上げさせたが、今の彼女はそんなことを気にしないほどの活力に満ちていた。税関で持ってきたビザの書類を渡し、パスポートの新しいページにスタンプが増える。彼女が旅をする中で、一番好きな瞬間だ。
「オーストラリアには何をしに来たの?」
「人生の休日を過ごしに来た。自分の中で一番贅沢な時間を過ごしたいの」
「これは、君の休日1年分のクレジット。この日付まで君はオーストラリアにいられるから」
彼の言葉に胸がギュッと締め付けられて、百々子は本当に今までの日常から飛び出したんだ、と実感していた。税関の彼に笑顔で礼を言うと、自分のスーツケースを受け取り、検疫に向かう。検疫係のビーグルがとても可愛いが、ここで気は抜けないと検疫係とビーグルを交互に見つめた。
「うん、大丈夫そうね。ありがとうお嬢さん、ようこそオーストラリアへ」
検疫係がそう言い、百々子は到着口を出た。旅の疲れを打ち消そうと到着口を出てすぐのカフェで、コーヒーを飲むことにした。しかし、今まで見ていた商品名と全く違う飲み物がずらりと並ぶメニューを見て、彼女は緊張した面持ちで店員に声をかけた。
「このショートブラックっていうの、お願いします」
「はい。3ドル50セントですね」
出てきたコーヒーは、想像していたものと全く違う。エスプレッソっていうやつか?でもメニューにエスプレッソもある。
「なんなんだこの国…」
同じ英語圏でも、百々子が今まで過ごしていたアメリカとは全く違う、いわば未知の世界だ。この場所で、本当に1年も過ごせるんだろうか。そんな不安を払拭するように、彼女は手の中のショートブラックをぐっと飲み干した。
空港から、市内に行くバスに乗り、オーストラリアという広大な未知の世界をぼーっと眺める。車内での会話に耳を傾けるが、アクセントも言い回しも、アメリカで使っていた英語と全く違い、理解するのも放棄した。すっかり不安に飲み込まれた百々子だが、この旅をある意味、華々しく飾る最初の事件が起きたのは、バックパッカーズでチェックインをする時のこと。
「あれ・・・パスポートが・・・ない?」
第3走者へ続く
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