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フォトジャーナリスト宇田有三氏による衝撃ルポ

On The Road by.Yuzo Uda
Vol..146/2010/3

「差別の構造」


ちなみに、ビルマは仏教徒が85%を占める。バングラデシュは90%以上がイスラームである。ビルマ人やラカイン人はビルマ語やその変形のラカイン語を話すが、ロヒンギャーはチッタゴン方言のベンガル語(バングラデシュ語)を話す。
 これだけ見ると、「ロヒンギャーの出自は、バングラデシュ領のチッタゴンだと思われる(ロヒンギャーは13世紀からその地に暮らしていたムスリムの子孫だという主張もある)」。だが、ロヒンギャーは、およそ200年間ビルマ領に住み続け、ビルマ国軍がクーデタを起こす以前の民主ビルマ政府から合法的に市民権や独自の居住地域を獲得していた。
  ロヒンギャーに取り組むためには、現在の難民問題の背景に横たわる歴史、文化、宗教、民族など、なかなか理解しづらい事柄を理解しておく必要がある。 また、ロヒンギャーに関して、簡単に取りあげるだけでも、次のような対立や「行き違い」が存在している。

①「バングラデシュ」→←「ビルマ」 
②「ビルマ軍政」→←「ビルマ民主化勢力」 
③「ビルマ人」→←「ビルマの少数派民族」  
④「ビルマ人」→←「ロヒンギャー」
⑤「ビルマの少数派民族」→←「ロヒンギャー」
⑥「仏教徒」→←「イスラーム」
⑦「公式キャンプ」→←「非公式キャンプ」
⑧「バングラデシュ人」→←「ロヒンギャー」
⑨「ロヒンギャー・ムスリム」→←「ビルマ国内のその他ムスリム」

 

 私が実際に現地に取材に入ってみると、④と⑤、⑦については一般的にほとんど報道されていないことに気づいた。
  軍事政権に反対するビルマの民主化勢力は、民主主義や人権の観点からロヒンギャーを支援する意思を示す。だが、ビルマ国内には言葉では表せない反イスラームの風潮が、実は潜在的にある。それは、私個人が思うに、人々の意識が反軍政に向かわないように、軍政による反イスラームのプロパガンダの影響が一般のビルマ人の間に広がっているからだ。
 またビルマの民主化勢力は1988年の民主化運動の後、少数派7大民族(ラカイン、チン、カチン、シャン、カヤー、カレン、モン)と反軍政の立場で共闘するようになった。この少数派民族のラカイン人は、ロヒンギャーの歴史に関する主張に強固な反対の立場を取っている。