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現役新聞記者が、過疎化・少子高齢化が進む日本を追う

ムラの行方 藤井 満
Vol.176/2012/9

第5回「たたらの里の暮らし考(5)」


「鷹の爪」と呼ばれる従来のとうがらし(右)と、10センチ前後に成長するシシトウのような韓国産の品種(中央) 地元産の米や牛乳、卵、果物をつかったズコットやプリン

「鷹の爪」と呼ばれる従来のとうがらし(右)と、10センチ前後に成長するシシトウのような韓国産の品種(中央)。鷹の爪の3分の1ほどの辛さでペースト状にして加工品をつくるのに適している。左は「吉田ふるさと村」が発売した調味料。

地元産の米や牛乳、卵、果物をつかったズコットやプリン。


 雲南市周辺はわずか数年で全国有数のとうがらし産地に育ったが、地元では意外に知られていない。
 雲南市と同市商工会が08年、地域の農産物をどの程度知っているか商工業者に聞き取り調査をすると「雲南にとうがらしがあるの?」といった声が相次いだ。サンショウやブルーベリー、スモモなど、地元の多くの「宝」が地元で知られていなかった。
 農家と加工・販売する業者を結ぶため、両者が顔を合わせる見本市を08年に開き、約60団体で「農商工連携協議会」を結成。地元産のとうがらしやサンショウ、ニンニクのブランド化を図る「うんなんスパイスプロジェクト」をスタートさせた。
 09年には、市内の業者が工夫をこらした調味料が次々に完成した。
 とうがらしとニンニクと梅を組み合わせた「梅ピリサルサ」、パスタや肉料理に合う「青とうがらし&ニンニク」……。公共事業削減で農業に進出していた建設業者は、とうがらしを練り込んだラーメンを作った。「20数人いた従業員が10人を切った。農産物を出荷しても単価が安く利益になりにくい。付加価値のつく加工品も手がけることで、なんとか雇用を守っていきたい」と業者は話す。
 農商工連携は、スイーツでも進んでいる。まず09年、地元の牛乳と卵を使った「プリン」をテーマに、和洋菓子店4店が、巨大な「バケツプリン」や、「プリンまんじゅう」を生み出した。10年春には「野菜スイーツ」に取り組み、緑のロールケーキや野菜のマカロンなどを開発した。その年の秋には、全国の菓子業界で注目されつつある半球型のケーキ「ズコット」に着目した。プロジェクトのリーダーの坪内肇さん(47)の高校生の娘が小麦アレルギーだったこともあり、小麦粉の代わりに地元のコメを使おうと思いたった。10月、完成したズコットを試食した娘は「おいしいね!」と笑顔を浮かべた。「生まれてはじめてチーズケーキを食べる娘を見て、うれしくて、感動して、涙がこぼれそうでしたよ」と坪内さん。
 地元素材を追究するなかで、それまで業者から仕入れていたスモモやプルーンなどが地元にあることを知った。米粉は小麦粉より高価だし、地元の果物も割高だ。だが「雲南のコメで作りました」と発信することで、売り上げは1割近く増えた。雲南には、木次乳業や有機農業、地元素材の学校給食などの伝統があり、『安全安心』への市民の意識が高い。坪内さんは「プロジェクトを通して『地産地消』や『安心安全』が付加価値につながることに気づいた。地元素材を使うことで地域に貢献している自信ももてた。商売に夢が出てきました」と話した。

(続く)