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あなたの言いたいこと
Vol.171/2012/04

今回は、3人の読者からの投稿を紹介します。



「人は生まれて、そして死ぬ。」

 この季節になると友人の死を思い出します。日本では春でしたが、こちらでは秋でした。彼はこちらの秋に、日本の春の柔らかな日差しの中で死にました。

 彼の死を自分の記憶の中だけに留めて置くことに最近、不安を感じています。なぜなら、心地良いところだけに光が当たり、それが自分の中の記憶を作っているように感じたからです。光が当たらない部分が徐々に記憶から消し去られているのも事実です。それはとっても寂しいことで、あってはいけないことだと思います。なので、彼が大好きだったパースエクスプレスに投稿して、かたちあるのもにしようと思いました。今なら、まだ光と影の差がそこまで大きくなっていないので。

 彼とは、オーストラリアで知り合いました。互いに惹かれるものがあり、よく一緒に行動していました。とても正義感の強い、芯の強い人でした。いつでも真実を追かけ、矛盾を見付けては批判し、弱者に目を向ける、優しい心の持ち主でした。そんな彼は、日本帰国後、心の病で薬を飲むようになったのです。電話口でそのことを聞かされましたが、彼自身があまりネガティブには捉えていないようだったので、自分もそこまで深刻に考えていませんでした。理由も聞きませんでした。しかし、それから5年後の今から3年前の秋、彼は自宅で息を引き取ったのです。死因は知りません。知りたくなかったからです。ただ、死んだ日は春の穏やかな陽が窓から差込み、外は桜が満開だったと聞きました。

 太陽が燦燦と照り付ける真夏の日々が、突然、冷たい風が頬を滑るような日に変わると、「またこの季節か…」と思い、彼を思い出します。日本のような徐々に移り行く季節の変化ではなく、急激ともいえる季節の変わり目だからこそ、スイッチが入るように彼が自分の中に登場するのでしょう。しかし、昨年は違ったのです。彼が死んだ秋に自分の息子がこの世に誕生したからです。

 昨年は、彼の死を意識しなかった自分がいました。頭の中は、息子の誕生でいっぱいだったのかもしれません。なので、彼を思う気持ちは昨年の分も合わせ、今年は強く感じているのも事実です。彼の死をいつまでもかたちあるものにするため、彼にとっては思い出のパースエクスプレスに“彼の死”について記させてもらいました。

<投稿者>河村 41歳 男性