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先日あるきっかけで、一本の古びたビデオテープを入手した。それは今から17年前、自分で録画した、あるテレビ番組が収録されたものだった。その番組とは、1986年W杯サッカーメキシコ大会開催に向けて、W杯の歴史から当大会に出場する注目選手を紹介するサッカーの特別番組だった。しかし、周知のごとく日本は参加国の一国ではなく、当時の日本でサッカーと言えばまだまだメジャーなスポーツになりきれておらず、そんな番組が存在したのかさえ記憶にある方はいないと思う。ちなみに、テレビ東京で放送されたもので、番組名は「W杯サッカー歴史特集」、司会はあの「三菱ダイヤモンドサッカー」で岡野俊一郎氏(現日本サッカー協会会長)と黄金コンビを組んでいた金子勝彦氏だった。番組そのものは、W杯第1回大会からの試合をVTRで編集しただけの構成で、決してお金のかかったものではなく、強いて言うなら1968年のメキシコオリンピック大会得点王釜本邦茂氏へのゲスト出演料とサッカーの神様と称されるペレ氏への独占インタビュー料ぐらいだけだったと察する。

15分おきに流れるアナログ的コマーシャルに苦笑いしながらも、郷愁の思いで17年前の映像を見入っていると、なぜか自責の念のようなものを感じた。当時、両親が寝静まった夜中、何度も何度も繰り返し観ては、幼き心を躍り上がらせていたこの番組だが、17年経った今、こうして観ている自分に後ろめたさを感じた理由はなんなのだろうか。

刻一刻と刻まれる時間とともに、情報も平行して生まれる。1分に一つの情報が生まれると考えるなら、1日で1,440個、一週間で10,080個のインフォメーションが誕生していることになる。つまり、一週間前のインフォメーションは10,080個"前"の情報となってしまう。当然、今のこの一瞬も生まれ続けているわけだから、10,080個"前"の情報などは、色あせたボロボロの雑巾の様になってしまっているのだ。がしかし、5月1日の「イラク戦争・戦闘終結宣言」以来、ばったりと関連報道が影を潜めてしまた今、同じようにこのイラク戦争についても過去の情報として葬り去られてしまうのか。フセイン大統領の居場所は結局、見付かったのか。自分たちの生活に直接関与しないモノは、過去の出来事として抹消され、明日のミーティングに使う資料作りの方がよっぽど重要になってしまうのだろうか。

17年前の一本のビデオは、子供の頃の大切な、大切な宝物だった。その宝物の封を再び開いた時に感じたあの後ろめたさは、過去を振返る行為へのおとがめのようなものだったかもしれない。だが、3週間"前"のあの報道に目を向けることは、同じように過去を振返ることになるのだろうか。いや、決してそうではないはずである。

パースエクスプレス編集長
今城 康雄
2003年5月23日