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ドロップアウトの達人 Vol. 62
 

 オリンピックの放送についてあなたの感じられたことは、事実だと思います。冷静に眺めてみると、例え競技の内容が魅力的でなくても、自分の国の選手が活躍していると、そればかり映してしまうことになるみたいです。例えば、同じ日に日本対パラグアイのサッカーの予選がありましたが、こちらの放送では、この国の選手がライフル射撃で金メダルを取った模様を繰り返し放送していました(でも、SBSの放送は公平で評価できると思います)。

今回のオリンピック中継を見ていて、印象に残ったことが2つあります。1つは女子のレガッタ(8人乗り)艇のレースで、優勝候補だったこの国からの参加艇のクルーの1人が、レース半ばで漕ぐのを止めてしまったというものです。彼女は決勝レースの最中、突然漕ぐのを止めてうずくまってしまったのです。そして、残りの8人(漕ぎ手7人)がどうすることも出来なくなってしまったのです。後で分かったことなのですが、彼女は別に心臓発作に見舞われて漕ぐのを止めた訳でも、腕に痙攣が走ってオールを握ることが出来なくなった訳でもありませんでした。どうも、発作的に漕げなくなってしまった、発作的に漕げない精神状態に陥ってしまったらしいのです。このため、残されたクルー達は、彼女はもうこれ以上漕がなくてもいいから、ほかの漕ぎ手の邪魔にならないようにオールを持ち上げているとか、オールを水から上げた状態で、一緒に漕ぐペースに合わせてもらうとか、させようとしたみたいなのです。ところが、その女性はそのいずれも拒否して、ただうずくまったり、仰向けになって天を仰いだりするばかりだったのです。そのためにオーストラリア艇は、結局、残り半分のレースを棄権するようなかたちでゴールラインを通過することになったのでした。

さあ、そこからが大変です。「あの女は、以前、2年前のスペインでの世界選手権決勝でも途中でうずくまって、レースを台無しにした」という元代表選手のコメントや、「なんのためにこの10年以上、レガッタに取り組んできたか分からない」と泣き崩れる同船したクルー達、「遠目に、最もオーストラリア人らしくない行動に映った」キャシー・フリーマンなど、金メダルが期待されていただけに大変な騒ぎに発展しました。

しかし、女子マラソンの第一人者、ラドクリフ選手が今回のマラソンレースを途中棄権した事例を挙げて、前述の女性をかばう意見もありました。事の真相は彼女が将来、冷静に振り返るようになった時に明るみに出ることと思いますが、当事者の女性が美人であったことから、彼女を攻める声が少しトーンダウンした気がするのは、僕だけでしょうか。

もう1つは、男子競泳最終日の400mメドレーリレーで、金メダル候補のこの国のチームが、あろうことか予選落ちしてしまったというニュース。予選の結果が9位だったために、8位まで決勝進出できる枠に入れなかったのだそうですが、調べてみると、エースのイアンソープが予選には出場していなかったことが分かりました。別にイアンソープだけが替え玉を使っていた訳ではなくて、他のチームでも一部の選手の体力を温存するために予選には出ないことがあるそうなのですが、今回、なんと不幸なことに、そのためにタイムが伸びずにチーム全体が予選落ちしてしまったのです。僕が、4年前のシドニーオリンピックで選手村の手伝いをしていた時、有名選手達は選手村には泊まらずに、5スターホテルから会場にやってくる事実を知りました。これはオーストラリアの選手だけでなくて、日本の選手もアメリカの選手もそうでした。

ですから、今回のアテネでもリレーの他の参加選手は、同じチームにも関わらず選手村のドミトリーからレースにやってきて、一部のスーパースター達は、シェラトンホテルオーシャンビューから彼女同伴のリムジンで乗り付けていたとしても不思議ではありません。ソープ選手の場合、国内の最終選考でフライングして、失格していたにも関わらず、選ばれた選手が出場を辞退して、代わりに参加した種目がある程、国を挙げての超特別待遇だった訳ですから、その辺のしっくりいかない気持ちの上に、シェラトンオーシャンビューとリムジンが重なって、黒子に徹するはずの代役の選手がうまく泳げなかった気がしないでもありません。

前述のレガッタ艇の女性といい、ソープ選手の黒子の失敗といい、結局は人間の気持ちが競技の結果を大きく左右するものなのですから、やっぱり強い人が勝つのではなくて、勝った人が強いということになるのでしょう、きっと。では、どうして大変なお金を使ってまでオリンピックやワールドカップを開催し続けるのでしょうか。それは、そういった大舞台になると、人は思いもよらない力を発揮することがあるということなのです。その奇跡の瞬間を共有したいから、人は高いお金を払って、わざわざ観戦に出かけるのです。ライブにはテレビでは伝わらない生の魅力があるのです。ロックコンサートも一緒ですよね。

最後に、それにしてもドーピングっていうやつは、実に後味の悪いものだと思いませんか?たとえ室伏選手が関係していなかったとしても。

回答ZORRO

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