パースエクスプレスVol.112 2007年5月号

「ヒマラヤ山系−東の端から(2)」

 山を歩き始めるとすぐに、ポーター達はそれぞれ、自分のお気に入りの歌を口ずさみ始める。私にはその歌詞の内容は分からない。だが、彼らの歌声につられて、なんだかウキウキとした気分になり、足の調子も軽くなる。もっとも、じっくりとそれらの歌に聴き入っていると、あれ、なんかおかしい、ということに気づく。7人のポーターは、それぞれが異なった歌詞を歌っているはず。なのに、誰もが歩調に合わせてリズムを取っているせいか、全員が一つの歌を歌っているような錯覚に陥ってくる。  30分も歩き続けると、背中にうっすらと汗をかき始める。そうなる頃には、ポーター達の歌も自然と止む。口歌が、フフフン、という軽い鼻歌に変わる。それから間もなく、みんな無口になって、黙々と歩を進める。平地ならそれほど困らないが、ほとんどの道が上下の激しい山道だ。口を開いている余裕はないのだ。  だが、そんな中でも、クンシンディーだけはハアハアと呼吸を乱しながらも、他のポーターに話しかける。

 
ビルマ最北の村タフンダム。熱帯というイメージの強いビルマだが、最北の村々には雪が降る。 移動の自由がなく、動けても移動手段を持たない普通のビルマの人が雪を見ることは極めて難しい。

鳥と虫の音だけが耳に入る山の中、彼の高い声の調子だけが山の間に谺する。話しかけられたポーターは、ウンとか、アンとか、オンとか、気のない返事をしているだけ。独りっきりで旅をしていたクンシンディーにとっては、やはり話し相手がいるというのは、いいものらしい。 
 

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