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フォトジャーナリスト宇田有三氏による衝撃ルポ

On The Road by.Yuzo Uda

Vol.209/2015/06


再度—《ビルマ(ミャンマー)の「ロヒンジャ問題」を
てがかりにして》



On The Road by Yuzo Uda
バングラデシュの難民キャンプに暮らすロヒンジャ・ムスリムの女の子(2010年)。


 この 「On the Road」 の連載144回〜156回(2012年9月〜2013年9月)で約1年間、ビルマ(ミャンマー)の「ロヒンジャ問題」について書き綴ったことがある。それは、ビルマの西端、隣国バングラデシュとの国境地域で迫害を受けていたロヒンジャ・ムスリム(ベンガル系)の話だった(「ロヒンジャ」とはビルマ語読みで、「ロヒンギャ」とは英語読み)。
 ビルマが東南アジア最後の軍事独裁国家だったと知っている人でさえ、このロヒンジャ問題が起こった歴史的背景について十分な理解をしていないことがある。
 ビルマは2011年3月、半世紀に及んだ軍事政権ビルマ軍政に終わりを告げた。だが、国際社会は、同国が抱えていた歴史・民族・宗教・社会構造が複雑に入り組んだこの「ロヒンジャ問題」に注意を向けることはなかった。また海外メディアの多くは、このロヒンジャ問題を単に、民族紛争・宗教紛争と捉えてきた。だが、それは一面的な理解であった。
 私は、4月に出版した『観光コースでないミャンマー(ビルマ)(高文研)』の最後に、わざわざこの「ロヒンジャ問題を考える」という一章を付け加えて、この本を書き終えた。私が思うに、このロヒンジャ問題への理解こそが、軍政から民政移管したビルマが抱える問題をより深く考える手がかりになると思ったからだった。私は、この本の出版で、この問題の報告に一区切りをつけるつもりであった。
 だが、そのロヒンジャ問題が今年5月、東南アジアという地域を越えて、世界で注目されることになった。タイやマレーシアでの人身売買に絡んで、殺害されたロヒンジャの人びとの秘密墓地が発見されたことから、ロヒンジャ問題は世界の問題として、改めて認識されることになったのだ。