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フォトジャーナリスト宇田有三氏による衝撃ルポ

On The Road by.Yuzo Uda

Vol.204/2015/01


「記憶と記録の交叉(3)」



On The Road by Yuzo Uda

中米の最小国であるエルサルバドル。少ない耕地を利用してコーヒー栽培に取り組む農民たち(1996年)。

 そこで、今度は「満州事変 エルサルバドル」と検索してみると、意外な結果が表示される。日本の関東軍が引き起こした満州事変で成立した傀儡国家「満州国」を世界で最初に認めたのが、この中米のエルサルバドルなのである。 日本の外務省の記録にもそのことが記されている。

 この時の理由として強調されたのは、中米地域における商権の擁護および拡張であったが、一方、この時期、通商以外の面でも、日本と中米諸国との間に親善関係が見られるようになっていた。
 すでに日本に総領事を派遣していたエルサルバドルは、1933年に移民法を改正して日本人に対する入国禁止を是正し、翌34年には他国に先駆けて「満州国」を承認するなど日本寄りの政策を採っていた。

<http://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/honsho/shiryo/j_latin_2005/2-6.html>

 日本で「満州事変」が語られるとき、その多くは当時のアジアの情勢に触れたものが多い。しかしながら、このエルサルバドルについて書かれたものは少ない。そこで、なぜエルサルバドルが世界で最初に満州国を認めたのか。単に権益だけの理由であったのか。

  いつ・何が・どこで起こったという歴史事件を時系列の点のつながりだけで捉えるのではなく、地球全体を覆うような面で考えることによって、広がりを持ってくる。そこで想像力を働かせるのである。その頃、いったいエルサルバドルはどのような国であったのか、と。

 エルサルバドルでも1932年、国内の軍部による大虐殺「ラ・マタンサ(La Matanza)が起こり3〜4万人が命を落とす事件が発生している。ここでも軍部の暴走がキーワードとなる。もちろん中米というからには北の巨人、アメリカ合州国の1929年の大恐慌の影響が及んでいる(日本や他のアジア、欧州にもその影響は大きかった)。

 歴史的な事件を時系列の点で結ぶことは、確かに勉強になる。そこで、そこからさらに一歩進めて、歴史を学ぶということは、もしかしたら「一見すると無関係なあれとこれは、実はつながっているかもしれない」という歴史感覚を磨くことではないだろうか。その歴史感覚を養うことによって、自分の脳に染みこんだ先入観や偏見、それによって生み出される独りよがりの政治的主張を修正させてくれるかもしれない。

 冒頭に上げた「感想」の中では「この戦争(this war)」となっている。私はあえて「この戦争」を「アジア太平洋戦争」と記述した。だが、人によっては、第二次世界大戦、太平洋戦争、日中戦争、とさまざまな書き方をしている。その記述だけでも、歴史的な事件をどのように考えるか、いろいろと想像、考えさせられる。 それらの作業を経て、記憶と記録は歴史となる。