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あなたの言いたいこと
Vol.152/2010/9

今回は、オーストラリアで仕事をする日本人駐在員からの投稿です。

『ご心配』と『ご迷惑』

駐在で、日本から来ています。会社は9割がローカルで、残りの1割が日本人です。その日本人も日本からの駐在はごく僅か。ほとんどが現地採用です。こちらに来て自分はまだ月日が浅いですが、いろいろと驚かされることがありました。今もあります。当然、文化も違えば、しゃべる言葉の違うオーストラリア人への驚きは日常茶飯事ですが、同じ日本人への驚きについて、今回は投稿します。

先月末、現地採用の日本人スタッフ(A)が体調不良で会社を休みました。「風邪をひいて熱が出てた」と電話で病欠の理由を伝えてきました。ただ、タイミングが悪く、大事なクライアントへのプレゼンテーションを行なう前日だったので、「とにかく当日は身体だけでも先方まで運んでほしい」と告げました。そして、次の日の朝。Aからの電話では「ベッドから立ち上がるとめまいがする。薬を飲めば何とかなるかしれないけど、今日も休みたい」との内容でした。クライアントとのミーティングまで、あと4時間。このプロジェクトはAが中心になってやってきたものだったので、半ば諦めつつも、とにかく手の空いているスタッフ総出で、できる限りのことを尽くしました。

Aがオフィスに戻ってきたのは、プレゼンテーションの日から2日後でした。そして、第一声が『ご心配をおかけしました』だったのです。この“ご心配”とは「あなた(がた)は、私(A)の病状を案じ、心配してくれた」に対する言葉だったと思います。そして、「熱が何度まで上がって、意識がボ〜っとして、何もやる気が起きなかった」と、自分の過去3日間について話し始めたのです。聞いている最中、自分中心で行なっていたプロジェクトについて何も聞いてこないことに多少疑問を感じ、上司としての立場から「みんなであのプロジェクトは穴埋めしておいた」とだけ話すと「そうですか…」と一言残して、自分の席についたのです。

席につこうとするAの後ろ姿を見つつ、周りのスタッフの視線を感じ取り、後を追うように「『ご心配をおかけしました』も確かだが、『ご迷惑をおかけしました』の方が今回のケースでは適当だと思う」と言いました。そして「自分の穴を埋めてくれた周りの人への感謝の気持ちをまずは伝えるべき。仕事への責任感といった胡散臭いことはどうでもいい。会社は組織で動き、チームで仕事をこなしている」と話をしました。Aは、ただじっと聞いていました。

さて、仕事上での責任感は、雇う側と雇われる側、上司と部下といった立場の違いがあるので一概には言えず、押し付けるものでもなく、最終的には本人次第というところに大きく起因しています。また実際のところ、Aは社交的で、人の輪にも上手に入り込め、空気も読める人間です。周りへの配慮を欠くこともありません。なので、今回のAの発言は、責任感や周りへの配慮不足といったことではなく、もっと深いところにあると思われるのです。

ちなみに、Aは日本の高校を卒業して、直ぐに渡豪。こちらの大学を卒業。その後、数年ローカルの会社に勤めた後、当社へ現地採用で入社。今年で4年となります。当然、日本での会社勤めの経験はなく、日本の仕事スタイルはほぼ知りません。つまり、社会人としては、Aはオーストラリア人と言えるでしょう。日本人だけど、オーストラリア人。もしかしたら、そこに、「ご迷惑」ではなく「ご心配」のカギが隠されているのかもしれません…。

地理的環境は、人間形成に大きく関与します。移民の国のオーストラリアにおいて、それぞれは“個”で始まりました。“個”が集まり“集団”となったわけですが、まずは“個”の存在が確立しなければ、“集団”は成り立たちません。必然的に“個”は強くなります。強くならなければ、生きていけません。生活もできない。一方、島国の日本は最初から“集団”でした。外敵は海が守ってくれました。そう考えると、17、8歳の青年にとって、最初の大人の社会が“個”ありきでは、“個”が強くなるのは当たり前かもしれません。そう考えると、そんな生活環境の中で「ご迷惑をお掛けしました」なんて、言えっこありませんかねぇ…。

<投稿者>伊藤 男性/46歳