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あなたの言いたいこと
Vol.141/2009/10

日頃気付いたこと、感じたこと、考えていることなど、一般読者から自由に書かれた『あなたの言いたいこと』。一般応募の中から選出されたものを不定期に掲載します。初回を飾るのは、誰しも共通して抱える思いを綴った本誌愛読者の投稿文です。

『Never Say No』

暑さも和らぎ始めた4月の中旬。お得意先に挨拶に行った帰り、オージーの男の子に声を掛けられた。でも、何を言われたのか分らず、聞こえていないふりをして通り過ぎた。その瞬間、肩をつかまれ、もう一度、何か言われた。最後の“シィガレッ”という一言だけが耳に入ってきたので、とっさに“Sorry!”と言い走り去ったが、身の毛もよだつ思いだった。

自分は東京の会社に勤め、今年の4月にパースへ転勤となった。子どもと妻も一緒にパースに来ている。もう若くない。俗に言う、『典型的な日本の疲れたサラリーマン』といった外見だろう。

この間、会社の同僚と昼食をとった後、シティのモールを歩いていたら、若い白人の男性に“Give me coins”と言われた。かなり強い口調だったが、英語に耳が慣れてきたのだろう。すぐさま“Don’t have cash”と言って断わった。その足でオフィスに向かう途中、今度は2人組の男性に声を掛けられた。今度はそう若くない。彼らは“Do you have spare cigarettes?”と尋ねるように聞いてきた。目を見開き、懇願するように。そこで同僚が“I don’t smoke”と言うと、もう1人が“Please”と両手を広げる。そこで自分も“No, we don’t have cigarettes because we don’t smoke”と答えると、最初に声を掛けてきた方が“we never say no!”と叫んだ。周りの人は、一気に我々に目をやった。実際、私も部下もタバコを吸う。声を掛けられる前に2人とも食後の一服で、歩きタバコをしていた。

パースに来る直前、会社の課の人たちが、東京のあるレストランを貸し切り、送別会を開いてくれた。最寄りの駅で降り、そのレストランに向かう道中のこと。斜め前を歩いていた老人が急にうずくまった。眉間に皺を寄せ、苦しそうな表情が一瞬見えた。しかし、自分はそこで手を貸すこともなく、通り過ぎてしまった。歩を進めるが気になり後ろを振り向くと、1人の女性が声を掛けていた。しかし、自分と同じようにその老人の脇を通り過ぎる人の流れは一向に止まることはなかった。

このオーストラリアという国は、『we never say no』の国なのか。自分にとって海外勤務は、今回が初めてではない。自分の国ですら、『never say no = yes, may I help you』ができないのに、人(よそ様)の国に来て『never say no= we help you』を理解できるだろうか。これが、最近の自分のテーマである。

投稿者:勝手 延高(かつて のぶたか) 男性/41歳