ドロップアウトの達人 Vol. 61 |
先日新聞を読んでいたら「トルシエ監督辞任」という見出しが目に入りました。確かあの人は日本の後、UAEかどこかで監督をしていたはずだと、文字を目で追いながら考えていると、ふとひらめいたことがあるのです。 それは、もしもその新聞の見出しが「とるしえかんとくじにん」と平仮名だけで書かれていたらどうだろう、ということです。僕達は外国の人の名前には「トルシエ」のようにカタカナで書くように教わっています。でも、この国のようにアルファベット26文字の文化の人達には、カタカナや漢字を平仮名ベースの文章にちりばめて、違いや価値をかもし出す日本のような手法はありません。もしも、こちらのスタイルで先程の見出しを作った場合、「とるしえかんとくじにん」という書き方になる以外ない のです。 何をおまえは理屈っぽいことを言っているのだ、とお叱りを受けることを覚悟の上で続けますと、僕にはその日本語の表現の仕方が、限りなく差別に近いのではと思えてならないのです。例えば、「トルシエと敏江は恋人同士」という表現をこちら流にすると「とるしえととしえはこいびとどうし」となります。平仮名で並べてみると「とるしえ」も「としえ」もそんなに違わなく見えるのに、「トルシエ」と「敏江」にするともろに外国人と日本人の組み合わせと分かってしまいます。もしも、日本に平仮名しか文字がないとしたらどうでしょう。「とるしえととしえ」の間には「トルシエと敏江」ほどの違いがあるようには見えません。そして、2人の人間の名前という印象の方が、外国人の男と日本人の女という印象よりも強く残る気がします。 だからなんなのよ?と言うあなた、僕はこっちで暮らすことが好きなのです。居心地が良いのです。それで、ふと日本に平仮名しか無かったら、もっと差別が無かったんじゃないか、もっとみんな肩の力を抜いて楽に生きられたんじゃないか、もっとこっちのノリに近い価値観なんじゃないかと思えてしまうんです。それに、平仮名だけの文章に慣れてしまえばそっちの方が小学生からお年寄りまで、あるいは日本語を習っている外国人の人にも、断然読みやすい気がします。 先日、1週間ほど日本に出張してきたのですが、35度近い炎天下の中を訪問先に失礼にあたるという理由から、背広でネクタイ締めて歩かされることになってしまいました。 バケツで水をかぶったような汗まみれの男が、果たして礼儀正しいのかどうか僕にはわかりません。でも、あの暑さは、間違いなくダーウィンやケアンズの夏に近いものがありましたから、ダーウィンやケアンズで、どぶねずみ色のスーツにネクタイを締めて会社回りなんかしていたら、さぞかし嫌がられるだろうなあと余計な想像までしてしまうのです。よっぽど浴衣とか甚平で仕事しちゃいましょうよ、と叫びたくなってしまいました。また、どこの建物に入っても、エアコンがギンギンに効いている。地下鉄なんて駅全部、丸ごとエアコン漬けになってしまっているんです。ものすごい量の電力をものすごい勢いで使いまくって、汗まみれになってその中を動き回るものすごい数の人がいる。なんかうまく言えませんが、もうちょっと本音で生きていこうとすれば、違う形の文化が育つような気がするのです。 そんなことを考えているうちに、いっそのこと新聞が全部平仮名になってしまったら、少しは世の中が変わるんじゃないかと思えてきてしまったのです。そのきっかけをくれたのが「トルシエ監督辞任」という見出しだったわけなのです。 「だからなんなのよ?」 A.今回、お答えになるのはあなたの方ですよ。さあ、どうぞ。 |
回答ZORRO |
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