僕の息子の友達に、ピエールという男の子がいる。彼の両親はフランス人だ。息子と同い年だからピエールも今年15歳のはずだが、これから話すことは息子から聞いたことだから、嘘か本当かは分からないけれども、僕はいい話だと思うので（本当は絶対誰にも言うなと言われているけれど、たぶん彼らがこの雑誌を手に取ることは無いだろうと判断して）、ここに紹介することとする。

　ピエールがマリファナを吸っていることは、彼の親しい友達の間では周知の事実である（「えっ、マリファナだって！それって、大麻取締法違反のあの大麻と呼ばれる麻薬のことでしょう？」と考えたあなた。あなた、もうここから先、つき合ってくれなくていいです。子供は早く帰って寝ること）。ある時、彼の父、フィリップ（サッカー前日本代表監督のトルシエではないのだが、どこか雰囲気が似ている）が、ピエールのかばんの中にあった紙巻タバコ用の巻紙を見つけるところから、この物語は始まる。

　フィリップ： 「ピエール、おまえタバコ吸ってるのか？」 彼はまだ15歳の中学生である。
　ピエール： 「ああ、たまにね」と言いながら、マリファナを巻いて吸 うための巻紙であることがばれるのではないかと、気が気 ではない。
　フィリップ： 「おまえ、タバコは体に良くないみたいだぞ。だいたい、子 供はみんなイキがって、うまくもないタバコに手を出すん だが、あれは出来たら止めた方がいいぞ。それよりももっ といいものもあるんだが…、例えばマリファナとか、ハッ シッシとか…。」
　ピエール： これは自分がマリファナを吸っていることを吐かせるため に仕掛けられた、父の巧妙な罠なのではないかと思い、黙っ ている。
　フィリップ： 「まあ、インドじゃあ、ハッシッシなんかは常備薬として 使ってるくらいだから。よもや吸ったことは無いんだろ う？」と言いながら、若い頃、旅したインドを思い出して、 うっとりするフィリップ。
　ピエール： 「あるよ。ハッシッシよりマリファナのほうが好きだけ ど」意を決して答える息子。
　フィリップ： 「本当か？それ。なんだ、早く言えよ。」

　ということで、その日からピエールとフィリップは、一緒に飛ぶことになったのだが、問題は彼の母親、フィリップにとっての奥さん、ジャクリンであった。彼女はまさか親父と息子が、2人して一服きめているとは夢にも思っていないから（彼女は弁護士である）、夕方仕事を終えて家に帰ってみると、親子してうれしそうにしている2人を見るにつけ、自分が物笑いにされているのではないかという疑念を持ち始める。
　例えば、自分がちょっとした失敗をやらかしたり、くだらないジョークを口にしてみたりすると、2人は腹を抱えて笑うのである。そのうち、ジャクリンとフィリップの間が、ギクシャクし始めてしまう。そこで2人は、母親のいない時に家の中で飛ぶことを止めようと申し合わせる。家の中で飛んでいると、いつジャクリンが帰ってくるかもしれないし、もしそうなったら、どうしても2人とも機嫌が良いわけで、また彼女に不審を抱かせてしまうに違いないからだ。
　そこで、悩んだ挙句に犬を飼うことにする。犬を飼っていれば、散歩に行きながら外で飛ぶことが出来ると考えたわけだ。そうすれば、ジャクリンを悩ませることはないし、いつでも散歩を理由に表へ出ることが出来る。これは、始めのうちはうまくいっていたようだが、2人が暗くなってから2度も3度も「そろそろ、犬の散歩の時間だぞ。」と言っては外へ出かける姿に、「犬は、そんなに夜遅くに出歩きたくなんてないんじゃない？」とジャクリンが釘をさすに至っている。
　ちなみにその後、ピエールは父の勧めでタバコを止めている。そして飛ぶ時は、お父さんと一緒という約束を守っている。先日フィリップに公園であった際、「いやあ、息子と仲良くなれて本当に良かったよ」とうれしそうにしているのを見て、僕は息子から言われたことを思い出し、危うく言葉を飲み込んだのだが、彼はかまわず話を続けたのである。「まだ15歳だから吸いすぎないように、最近は週末だけこっそり2人で楽しんでいるよ。」「ジャクリンの機嫌はどうだい？」それとなく聞いてみると、「このところ彼女とはワイン、息子とはハッパの2段がまえでやりくりしているよ」との答え。

　ピエールは将来、彼のお父さんのような映画関係の仕事に携わりたいと思っている。「マリファナを吸っただと？」と怒鳴りながら、息子の顔を形が変わるくらい殴り続けるのも（よく日本のドラマだと“そういう風にするのが本当の親の愛情だ”みたいに描かれているじゃないですか）、どこかの女優みたいにあわてて精神科の医者に駆け込んだり、地下室を作ったりするのも、勝手だけれども、世間にはこういう父親の生き方もあるってことを覚えておくのも、悪くないんじゃないかな。あれ、今回は質問の答えになってるかな？