ドロップアウトの達人 Vol. 45
 

 僕の友人で、この間このコーナーでも紹介した男が、最近、ドライバーズガイドという仕事を始めた。そのへんのことに詳しくない人のために、それがどんな仕事なのかという説明を加えておくと、要は、運転手とガイドを一人でこなすらしいのである。例えば、空港にお客さんを迎えに行ってホテルにチェックインするまでの手伝いをしたり、あるいは、1日バスを運転して郊外の国立公園に案内したりするらしいのだが、その仕事をしている人のほとんどがいわいる日雇いで、そのため、こちらでは永住者が最後の最後に行き着く仕事として考えられているのである。
 
友人の話によると、仕事自体は案外楽しいらしい。一生懸命案内すればするほど日本からのお客さんは喜んでくれるし、しかも空港に見送ってしまえば、二度と会うことも無い人達だから、つまらない人間関係で悩む必要も無い。それに、ドライバーズガイドをしている人達に、年配の永住者が多いため、ぎらぎらした職場の雰囲気のようなものとも無縁らしいのである。
 「それじゃあ、いいことばかりじゃないですか?」と、相槌を打つ僕に、友人はこう漏らすのである。
  「ところが、一つ問題があるのです。以前、私が勤めていた会社の話なのですが、私の下で働いていた男にある事情があって会社を辞めてもらったのです。ところが、その男が同じ会社でドライバーズガイドをしていて、影に日向に意地悪をするのですよ。」
  「でも、バスを運転するのは一人なわけだし、一緒に机を並べて仕事をしているわけじゃないでしょう?」
  「ええ、でも、空港の到着ゲートなどでどうしても顔を合わせることになるのです。そして、そこで僕以外の他のガイドさんと、これみよがしに和気あいあいとしていたりするのです。」
  「それは、君がつっけんどんに、そっぽを向いているから?」
 「いえ、初めの頃は僕の方から挨拶をしていました。けれども、完全に無視されたあげくに、わざわざ見ている前で、他のガイドさんに冗談言ったり、さも仲が良いというように見せびらかしたりするんです。」
 「そりゃ、大人気ない話だね。男でも“BITCH”みたいな根性の奴がいるんだね。それにそいつのやっていることといったら、完全に“CRAP”なんだから、気にすることなんてないじゃないか。それにしても、そいつはどうして会社を辞めなければならなくなったんだい?」
  「盗みです。本人はお客さんがくれたと言っていましたけれども。」
  「それで、辞めてもらう時、そいつは会社を訴えたのかい?」
  「いえ。案外、いいお金(こちらでは会社側から辞めてもらう場合、給料の数ヶ月分を上乗せして払わなければならない)をもらえたので、文句はないと言って、辞めていったと記憶しています。」
  「その男が、盗みの疑いを持たれたまま、会社を訴えることなく、手切れ金をもらって辞めていった以上、そいつは、その罪を認めたものと受け取っていいのではないかな?逆に、くだらない嫌がらせが続くようなら、君の方にだって、正当な言い分があるわけだし、まあ、あまり気にすることもないんじゃないかな。」
  「いやあ、理屈ではわかっているのですよ。でも、実際問題、毎回、そんな目にあっていると、こちらに最終的なカードがあるとしても、結構疲れるものなんですよ。」
 友人の愚痴はここでおしまい。それにしても、世の中、いろんな人間が生きているとしみじみ思います。友人を苦しめる前述の“BITCH”にも奥さんがいて、子供がいるとのこと。くれぐれもつまらない男にひっかからないように、お互い気をつけようではありませんか。
 それにしても、こんな説明で、“BITCH”と“CRAP”の使い分けになっていたでしょうか?

PS. フリーマーケットで鯛焼き屋さんをやろうとしているあなた(別の質問を下さった方)へ。オープンしたら、シドニーから食べに行きます。連絡ください。

回答ZORRO

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