ドロップアウトの達人 Vol. 44
 

 2月16日、イラク反戦集会に出かけて来た。そこでJACKSON BROWNに会う(70年代後半のアメリカを代表するシンガーソングライター。TAKE IT EASYはEAGLESも歌っていた)。
 2月19日、夕方ビーチで泳いだ後、公園を横切って家に帰る途中、ROLLING STONESのMICK JAGGERに出会う。彼は若い女性と子供さんを連れて公園に遊びに来ていた。ビデオカメラをまわしているところだった。21日からのコンサートのためにシドニーに来ていたらしい。家に帰ってから嫁さんに「なあ、おれの顔に、死相出てないか?」と、思わず口走ってしまう。それにしても、10代の頃、あんなに憧れていた2人にこうも身近に会えてしまう不思議さをどう理解したらいいのだろう…。やっぱり、もう先が短いということなのだろうか。先が短いといえば、この原稿が載っているころには、イラクの戦争についても何か答えが出ていることと思う。
 読者の方から、戦争についての質問も頂いているので、少し触れておくことにすると、僕は今回の戦争の発案者、ジョージ Wブッシュという男は、たいへんな親孝行息子であると思う。
 話がさかのぼるが、90年にあった湾岸戦争については、未だに評価が分かれているところである。そして結構大勢の人が、「なんであんなことしたんだろうね」と思っている。あんなこととは、クウェートを守るためという名目の下、軍隊まで送り込んで、結局、確保したのは油田だけでしたという中途半端な話のこと。当時の“砂漠の嵐作戦”で先鋒隊を務めていた陸軍第4師団(?)の戦車隊が、もうあと2日でバグダッドというところまで迫っていて、当時の大統領でWブッシュの親父のブッシュが(ややっこしいね)、急きょ、作戦終了を決め、そのためにフセインは生き残り、西側陣営は油田を確保するという取引が暗黙のうちに成立したあの湾岸戦争のことなのである。
 それを今更、「独裁者フセインを追い出して民主主義国家を中東に立ち上げるためにも、戦争が不可欠」と言われたって、それじゃあ、あの時、引き返さないでそのまま戦争を続けていればよかったと言われても仕方がないことなのだが、あの時、本当は最後まで戦争をしていたかったのが、Wブッシュの親父のブッシュだったのである。ところが世論に負けて、また、もしもバグダッドに進攻した時には、アメリカ軍の方にもたいへんな数の死傷者がでるという専門家の意見にも負けて、戦争を終わらせてしまったテキサスの親父のその後の人生は、「わが生涯で、最大の誤りはあの決断にあった」というものだっただろうことは、想像にかたくない。それを気の小さい息子は、いつも耳にして暮していたから、世界中で一番尊敬している老い先短い父親の唯一の希望、「あれさえ誤まらなければ、今頃わしもルーズベルトあたりと肩を並べていたのだが」をかなえるためにも、なんとしても戦争の第2幕を完結させたいというのが、本音中の本音とみえるのである。
 だから、Wブッシュの戦争に対する動機付けは父親を喜ばせたい、孝行息子だと言って頭をなでてもらいたいという点で、案外純粋なのである。
 それに便乗した油商人や、アメリカの輸出の30%を越える武器商人達、世界的な不動産狂想曲の中(日本は入っていません)、なりふり構わないネット投資家などが、Wブッシュのみこしを担いで、またどこかの国の首相のように豪ドルが上がってくれるならなんでもしますみたいな、国同士の醜い政治の駆け引きに振り回されながら、戦争は秒読みの状態に近づいているのである。
 アメリカは、戦後100万人前後の難民を救済するために、この国の国家予算の3倍を超える金をすでに準備しているという。先週のシドニー・モーニングヘラルドに出ていたコラム、「無責任な平和運動に踊らされて、戦争を回避していたら、いつまでもフセインは生き延び、罪のない市民は苦しみ続けなければならない」という、この国の人達らしい意見なども散見されるようになってきた。
 実に不思議な話である。チベットで何万人市民が殺されても、パレスチナ独立運動で毎年数千人もの犠牲者が続いていても、中国やイスラエルには何も制裁を加えない国連やアメリカが、イラクやアフガニスタンのことになると、簡単に軍事行動の選択をとってしまう現実は、シェークスピアが表現していた「人の世にはびこる“取引”の悲哀」以外の何ものでもないのである。しかもこれはシェークスピアの戯曲ではない、現実に起きていることなのである。僕たちは声を大にして聞くべきなのだ。
 「その後、アフガニスタンはどうなりましたか?約束どおり、カブ−ルの街は、復興されたのですか? 」
  殴られたほうはいつまでも忘れない。今回も安全な側にいて、人ごととして済ませようとしている僕達の側に、今一番必要な言葉なのかもしれない。

回答ZORRO

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