パースエクスプレス Vol.206 2015年3月号 掲載
当地オーストラリアにて、一般読者からの医療についての質問に専門家がお答えするこのコーナー。第35回目は、「性器ヘルペス」についてです。
性器ヘルペスとは、クラミジアに続き受診患者さんが多く、単純ヘルペスの感染による性行為感染症のことです。単純ヘルペスウイルスには、1型(HSV-1)と2型(HSV-2)があり、1型は通常、いわゆる口唇ヘルペスを起こすことがほとんどですが、オーラルセックスによって性器に感染することもあります。2型は、ほとんどの性器ヘルペスの原因であるウイルスで、性行為によって伝染します。現在、オーストラリアでは8人に約1人が2型に感染しており、そのうちの5人に1人が発症するという統計が出ていますが、これは逆に言えば、感染者のほとんどが発症していないため、ウイルスを保持していることに気が付いていないことになります。
1型、または2型が伝染する最も一般的な経路は、キスまたは性交、オーラルセックス、アナルセックスなど性行為による皮膚と皮膚の直接接触です。ヘルペスは、一度感染してしまうと、ウイルス自体を完全に身体から排出してしまうことは不可能で、発症のたびにコントロールしていかなければならない終生の感染症です。大抵、初めて感染してから2~12日後に発症することが多いのですが、数ヶ月後に発症することもあります。初回の発症時がもっとも症状がひどく、それっきり発症しないこともあれば(ただしウイルスは不活性化状態で保持している状態です)、毎月、あるいは数ヶ月ごとなどという頻度で発症を繰り返すこともあります。
症状は、初めに性器のチクチクした痛み、またはかゆみを感じ、その後陰部の腫れ、激痛、排尿時痛、水疱形成が出現し、同時に全身倦怠感、筋肉痛、発熱、頭痛、寒気など風邪のような症状を伴うこともあります。性器の水疱は破裂して潰瘍を形成し、これがかさぶたになり、症状が治まってきます。通常発症から2~4週間で治まります。再発した場合は、大抵初回よりもより症状は軽く、より早く回復する傾向にあります。
治療は、抗ウイルス薬の服用が第一です。発症後できるだけ早く服用を開始し、ウイルスの増殖を抑えることが重要です(ただし抗ウイルス薬はウイルスの増殖を抑えるもので、ウイルスを完全に取り除くことはできません)。また、近年では再発を繰り返しやすい初発症後の6ケ月から1年の間、予防的に抗ウイルス薬を定期的に服用することも勧められています。痛みに対しては鎮痛剤を服用し、落ち着くまで安静に過ごします。
予防は、他の性行為感染症と同じように、まずコンドームの使用が第一です。症状がなくても感染のリスクがありますが、特に口唇、性器共にヘルペス発症の症状がある時には、キス、全ての性行為を含め皮膚と皮膚の接触を避けて下さい。自分自身あるいはパートナーが、ヘルペスに感染しているかどうか血液検査で知ることがができますが、血液検査では口唇ヘルペスなのか性器ヘルペスなのかを特定することはできません。いかなる性行為感染症でも、予防についてパートナーと率直に話合えることが大切です。
回答者:日本語医療センター
マネージャー 千綿 真美さん