日本語医療センター

パースエクスプレス Vol.197 2014年6月号 掲載


当コーナーで一般読者からの医療に関する質問に答えていた千綿真美さんが、自身の体験を今号から3回に渡ってお届けします。


「乳がん」と「私」(その1)

 女性のがんの死亡数、オーストラリアでは1位の肺がんに続き2位が乳がん、日本では1位が大腸がん、2位は肺がん、3位は胃がん、4位が膵臓がん、そして5位に乳がんとなっています。オーストラリア、日本ともに乳がんの罹患率および死亡率は増えており、オーストラリアの2014年は42人の女性が毎日、乳がんの診断を受けるほどになるだろうと予想されています。

 今まで人ごとだった「乳がん」、まさか自分のことになるとは思いもしませんでした。

 2013年2月上旬のある日、突然右胸のしこりに気がつきました。コロコロとした感じだし、しばらくしたら無くなるかも?と思い、様子を見ていたところ、1ヶ月以上過ぎても変わらず。念のため、超音波(エコー)の検査を受けることにしました。結果は、自分で触れることのできたしこり以外に、実はもう2ヶ所あり、合計3つ。全て良性の繊維腺腫のようでしたが、100%確実にするにはバイオプシーをした方がいいと薦められました。

 自分では、良性だろうし、また予約をとって検査に行く時間を作るのも面倒だし、やらなくてもいいかな?と軽く考えていたところ、ドクターから「エコーで良性だと言われて、でもそうじゃなかったケースがあるから、念のためにやっておいた方がいい」と強く薦められ、さらなる検査を受けることにしました。

 検査を受けたのが4月初め、終わった後、結果を疑うこともなくもうスッキリした気分でいたところ、1週間後にドクターに呼ばれ、知らされた結果は「乳がん」。

 『えっ?』としか言葉がでないまま、呆然とするというのはまさにこのこと。どうしたらいいのかわからないまま、ただ座っていました。その間、ドクターが夫に連絡し、乳腺外科の専門医に3日後の予約を取ってくれました。駆けつけた夫にも説明してくれ、周りがあたふたしている中で、私はただ『信じられない』という思いだけでした。あまりにも信じられないので泣きもできず。いつも通り仕事のことも考えつつ、次の週からスクールホリデーだったので、子どものことをどうすればいいんだろう?とも考え、3日後、cのドクターの診察を受けました。

 幸い、がんのタイプは悪性度も低いもののようでしたが、3ヶ所あるので、しこりの切除だけではなく、乳房全摘がベスト、「4日後に手術しましょう」と言われました。ここで、また呆然。『はい』といいながら、頭の中では『これって、現実?』。まるで夢のように感じていました。

 それから次は、乳房再建をするため、形成外科のドクターの診察を受けたのですが、手術までに間がなかったため、無理やり作ってくれた時間は朝7時半から。しかも、説明に費やしてくれた時間はなんと1時間半。私自身、医療通訳として数多くのドクターの診察を見てきましたが、これほど長くかかった診察は、救急病院以外では初めてでした。

 昔は、乳房切除すればそれまでだったのが、今では再建できるだけでなく、その方法も様々。どの方法がどういう利点と欠点があるのか、たくさんの写真を見せてくれながら、じっくり説明してくれました。女性として乳房切除は、後に外見から心理的に影響するから、できるだけ希望に添うように努力すると言ってくれたものの、その時はまだ実感もなく、とりあえず一番シンプルな方法での再建をしてもらうことにしました。

 「乳がん」と診断された1週間後、手術室に寝かされ、いざ麻酔をかけられる時になって初めて恐怖感が沸き出し、『子ども達を残して死ねない』と強く思いながら、眠りに落ちていきました。

(続く)

  • 罹患率(りかんりつ)… 一定期間における疾病の発症頻度
  • 繊維腺腫(せんいせんしゅ)… しこり(腫瘍)
  • バイオプシー… 生体材料検査
  • 全摘(ぜんてき)… 全摘出

回答者:日本語医療センター
マネージャー 千綿 真美さん

トップへ戻る