パースエクスプレス Vol.196 2014年5月号 掲載
当地オーストラリアにて、一般読者からの医療についての質問に専門家がお答えするこのコーナー。第25回目は、「風邪と薬の処方」についてです。
風邪によるのどの痛みや咳、鼻水などは、様々な種類の『ウイルス』感染によって発症します。これらのウイルスに関しては通常身体の免疫機能が有効に働き、たいていは何もしなくても4、5日で軽快します。しかし風邪を引いた際、ウイルスに侵されている咽頭や気管支などの粘膜の防御力が弱りますので、そこから『細菌』による2次感染を引き起こしやすくなります。いわゆる中耳炎や、扁桃炎、気管支炎、肺炎、副鼻腔炎などが、風邪から起こる2次感染です。そして『抗生物質』は、これら『細菌』による2次感染に対して有効となります。
風邪などの感染症を引き起こす主な病原体は、その基本構造とどのように繁殖するかの違いにより『ウイルス』『細菌』『真菌』に分類されます。これらに対する薬には『抗ウイルス薬』『抗生物質』『抗真菌薬』があり、『抗生物質』は『細菌』に対して効くもので、『ウイルス』や『真菌』に対して効果はありません。日本では2次感染を起こさないよう、あらかじめ風邪の初期から予防的に抗生物質が投与されることがほとんどです。そのため、多くの方が「抗生物質で風邪が治る」と信じているようですが、実は身体の免疫機能によって風邪のウイルスが除去され、自然治癒できているためなのです。
オーストラリアでは、風邪の初期から抗生物質が投与されることはあまりなく、あくまでも免疫による自然治癒を推奨します。そして前述のような細菌の2次感染の兆候が見られてから、初めて抗生物質が処方されます。ただし、喘息や心疾患、その他の様々な慢性疾患、あるいは何かの理由により2次感染を引き起すと重篤になる恐れがある場合には、風邪の初期から処方されます。
また、「オーストラリアで病院に行くと『パナドール』を服用しろと言われる」と思われている方は多いようです。パナドールはアセトアミノフェンという鎮痛解熱剤で、副作用が少なく乳児から大人まで安心して使える薬です。これもやはり「まずは身体の免疫での自然治癒を試み、その間パナドールを服用して痛みや発熱、不快感などの症状を抑える」という考えに基づくものです。ただし、パナドールで2、3日様子を見ても変わらない、悪化する、などの時は必ず再診してドクターにその旨を伝えましょう。
抗生物質を不必要に繰り返して使うことは、耐性菌の出現(本来効くはずの薬が効かなくなる。MRSA〈メチシリン耐性黄色ブドウ球菌〉は、院内感染の代表的な原因)、菌交代現象(抗生物質の投与により常在細菌のバランスが崩れ、普段は問題ないはずの菌の増殖により問題が生じる)を引き起こすため、気をつけて処方されなければなりません。
回答者:日本語医療センター
マネージャー 千綿 真美さん