日本語医療センター

パースエクスプレス Vol.184 2013年5月号 掲載


当地オーストラリアにて、一般読者からの医療についての質問に専門家がお答えするこのコーナー。第13回目は、「抗生物質」についてです。


抗生物質について
I子さん(21)学生

お薬は抗生物質を出していただきたいんですが

 インフルエンザを含め、風邪は“ウイルス”が原因です。感染症を引き起こす主な病原体には“ウイルス”“細菌”“真菌”があり、これらはその基本構造とどのように繁殖するかの違いで分類されます。薬には“抗ウイルス薬”“抗生物質”“抗真菌薬”があり、“抗生物質”は“細菌”に関して効くもので、“ウイルス”や“真菌”には効果はありません。

 のどの痛みや咳、鼻水などの風邪は、様々な種類のウイルス感染によって発症します。しかし、通常これらのウイルスに関しては身体の免疫機能が有効に働き、たいていは何もしなくても4、5日で軽快します。ただし、一旦風邪を引くと、ウイルスに侵されている咽頭や気管支などの粘膜の防御力が弱りますので、そこから細菌による2次感染を引き起こしやすくなります。いわゆる、中耳炎、扁桃炎、気管支炎、肺炎、副鼻腔炎などが、風邪から起こる2次感染です。そしてこれらの細菌の2次感染に対しては、“抗生物質”が有効となります。

 日本では、あらかじめ2次感染を起こさないように、風邪の初期から抗生物質を投与されることがほとんどです。そのため、多くの日本人患者さんが“抗生物質”で風邪が治ると信じているようですが、多くの場合は身体の免疫機能が風邪のウイルスを除去して、自然治癒できるはずです。

 オーストラリアでは、風邪の初期から抗生物質が投与されることはあまりありません。あくまでも免疫の効果による自然治癒を推奨し、上記のような細菌の2次感染の兆候が見られてから初めて抗生物質が処方されます。ただし、喘息や心疾患、その他の様々な慢性疾患、あるいは他に何かの理由があり、もし2次感染を引き起こした際に重篤になる恐れがある場合には、やはり風邪の初期から処方されます。

 抗生物質を不必要に繰り返して使うことは、耐性菌の出現(本来効くはずの薬が効かなくなる。院内感染の原因となるMRSA〈メチシリン耐性黄色ブドウ球菌〉はその代表)、菌交代現象(抗生物質の投与により、常在細菌のバランスが崩れ、普段問題ないはずの菌の増殖により問題が生じる)を引き起こすため、気をつけて処方されなければなりません。

回答者:日本語医療センター
マネージャー 千綿 真美さん

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